2010.02.21
カンガルーの本棚 ワーキングプア
文庫本で売り出されたのを機会に、ポプラ文庫の「ワーキングプア」を読みました。
2006年7月と12月にNHKで放送された番組を出版化したものです。
放送時に感じたおどろきは、今もこころの中にしっかりとしまわれています。
ホームレス化する若者、地方経済の疲弊、貧困の嵐に翻弄される子ども。
読み進むうちに、悲しみと、怒りと、無力感がわたしを襲います。
あとがきの中で、中嶋太一氏はある女性ディレクターのメールを紹介されています。
「番組のラストコメントの打ち合わせの時、私はこう話しました。『誰もがいつまでも、若く、健康で、自分の力だけで生きられるというのは幻想です。しかし、国や企業はそうした幻想で、パーフェクトな個人主義の人間だけで社会を構成しようとしているかに見えます』と。これは私の家族の絶望からの実感でした。わが家を振り返ってみて、誤解を恐れずに言えば、人にはどうしようもない運命、というものはあるのだと思います。でも、その人自身の運命を大きく変えるのは無理だったとしても、その運命を支えている社会は、すこしでも何かできるかもしれない。『あなたは必要な命だ』と言ってあげられるかもしれないと思います。」
放送されてから、3年が過ぎました。この間に政権交代という大きな流れが起きました。
しかし、3年が過ぎ、テレビや文庫本の中で紹介された方々は、いまどのような暮らしをされているのでしょう。なにが変わったのでしょう。
医療生協・民医連で働く医師のひとりとして、こころを熱くさせてくれる一冊でした。
2010年2月21日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏