2010.02.08
カンガルーの本棚 万寿子さんの庭
小説を読みました。書店で一番目立つ棚にならべられている文庫本ですので、みなさんも目にされたことがあるかもしれません。
黒野伸一さんの「万寿子さんの庭」という本です。
本を紹介する帯には、「二十歳と78才の女性の友情」という意味のことを書かれているのがわたしの興味を引きました。
軽やかなテンポの文体と、ユーモアあふれるふたりの出会いとともだちどうしの深まり。そして、話は悲しい結末に向かいます。
ひとりの人間が年老いていくこと。おじいちゃんでもなく、おばあちゃんでもなく、ひとりの固有名詞をもった人間が年老いていくこと。その切なさと、最後の瞬間まで人間としての尊厳を保とうとする願いがこころにしみてきました。
わたしは小児科医です。子どもとの関わりで毎日を過ごしています。
クリニックにはショートステイもあり、デイケアも併設しています。熱心な内科の先生が24時間の在宅見守りもされています。
日頃から、高齢者の生活や健康について、いろいろとお話しをお聞きするのですが、やはり自分の中では小児科医という持ち場に対する割り切りがあるのでしょう。
この小説は、言い訳ばかりのわたしのこころの奥深くの、何かを揺さぶります。
作家が男性であるということにも驚きを感じました。
女性同士の友情を、これほどまでにていねいに描くことができるものなのかと感嘆しました。
一人暮らしをしている父に、次のお休みには会いに行こうと、そう思いました。
2010年2月8日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏