2011.12.30
カンガルーの本棚 時代の先駆者
吉村昭さんの、「長英逃亡・上・下」(新潮文庫)を、読みました。
幕末の蘭学者、高野長英を描いた作品です。
高野長英は、渡辺崋山らの「蛮社の獄」に連座して、江戸小伝馬町の牢獄に収監されます。
家族に会いたい、もう一度蘭学で身に着けた知識を、日本国に役立てたいという思いから、脱獄をはかります。
物語は、脱獄後、江戸で惨殺されるまでの、六年有余の長英の足取を追います。
越後、陸奥、宇和島、江戸と逃亡する生活は、いつ捕まるかも知れないと言う不安との闘いです。
当代第一人者の蘭学者であり、奢るところもあったといわれる長英が、支えられ助けられる中で、人々の人情を知り、人間らしく変貌していきます。
作者は、逃亡中の生活こそが、長英が最も人間らしく生きた歳月だと述べています。
来る年の3月21日は、高野長英を題材にした、前進座の「水沢の一夜」が公演されます。
どのようなお芝居になるのか、楽しみです。
「長英逃亡」は、2011年の読書記録の152冊目になります。
多くの良書に出会えたことを、うれしく思います。
吉本新喜劇的に締めくくるのなら、「このへんで、許しといたろか」
来年も、よろしくお願いいたします。
2011年12月30日
いたやどクリニック小児科 木村 彰宏