カンガルーの小部屋

2010.08.22

カンガルーの本棚 追伸

真保裕一さんの「追伸」(文春文庫)を読みました。

久しぶりのミステリー小説です。

2組の夫婦の間に交わされる、往復書簡。

その中で、少しずつ事件の真相が明らかにされていきます。

しかし、テーマは謎解きではありません。

作者は登場人物にこう語らせます。

「僕にも祖父母がおり、幼い時分には可愛がってもらった記憶がありながら、彼らに何ひとつ戦争の話を聞かずにきました。彼らの人生と僕の未来は一切無関係なのだと言いたげに、今日まで厚かましく生きてきたような心苦しさを、今さらながら感じています。

祖父母や両親は、自分たちの経験してきた苦労を語りたがらず、ひたすら子や孫の未来を信じ、祈り続けるものなのでしょう。我々もつい昔の苦労話など聞きたくないと考えてしまいます。

でも、そこには必ず懸命にその時代を生き抜いた人々がいて、多くの語られない物語が残されているはずなのです。」

暑い夏、いい本に出会いました。

                       2010年8月22日

                       いたやどクリニック小児科 木村彰宏