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2010.02.08
散歩のたのしみ 雨の予感
仕事を終え、遅く散歩に出かけますと、急に風が吹いてきました。
ナナが上の公園に行こうと言いますので、坂道を登っていきますと、キューっという音が聞こえます。
木の間に何かいるのか、木々の幹がこすれあう音なのか、わからないまま公園を歩いていますと、雲が低くたれ込めてきます。
今まで輝いていた星々が、灯りを消すようにひとつ、また一つと消えていきます。
ひゅー、バタン、とてとてとて、いろいろな音が暗闇の中から聞こえます。
風に転がる枯れ葉を追いかけて、ハッちゃんが急にリードを引っ張りました。
「雨になるのかなあ」
空はすっかりと灯りを消し、眠りにつきはじめました。
おやすみなさい。
2010年2月8日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2010.02.08
聴診器のむこうに ぼくデートしたよ
「ぼく デートしたよっ。」診察室に入るなり、年長さんの男の子が叫ぶように教えてくれました。「パティオで、それでお椅子をさがして・・」と続けます。
おかあさんが「並んで座ろうと思ってベンチを探したんですけど、開いてるとこがなくて」とフォローしてくださいました。手をつないで歩いて、「それでどんなお話しをしたの?」と聞きますと、「わすれた・・」
あまりのうれしさに、何をお話ししたのかは、すっかりと忘れてしまったようです。
その後、入学前のアレルギー検査をしましたが、泣かずに頑張り、看護師さんにほめられました。
生まれた時から、おとなになるまでの子どもの成長とおつき合いできる幸せは、小児科医に許された特権なのかもしれません。
この仕事が、またひとつ好きになりました。
2010年2月8日
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2010.02.08
カンガルーの本棚 万寿子さんの庭
小説を読みました。書店で一番目立つ棚にならべられている文庫本ですので、みなさんも目にされたことがあるかもしれません。
黒野伸一さんの「万寿子さんの庭」という本です。
本を紹介する帯には、「二十歳と78才の女性の友情」という意味のことを書かれているのがわたしの興味を引きました。
軽やかなテンポの文体と、ユーモアあふれるふたりの出会いとともだちどうしの深まり。そして、話は悲しい結末に向かいます。
ひとりの人間が年老いていくこと。おじいちゃんでもなく、おばあちゃんでもなく、ひとりの固有名詞をもった人間が年老いていくこと。その切なさと、最後の瞬間まで人間としての尊厳を保とうとする願いがこころにしみてきました。
わたしは小児科医です。子どもとの関わりで毎日を過ごしています。
クリニックにはショートステイもあり、デイケアも併設しています。熱心な内科の先生が24時間の在宅見守りもされています。
日頃から、高齢者の生活や健康について、いろいろとお話しをお聞きするのですが、やはり自分の中では小児科医という持ち場に対する割り切りがあるのでしょう。
この小説は、言い訳ばかりのわたしのこころの奥深くの、何かを揺さぶります。
作家が男性であるということにも驚きを感じました。
女性同士の友情を、これほどまでにていねいに描くことができるものなのかと感嘆しました。
一人暮らしをしている父に、次のお休みには会いに行こうと、そう思いました。
2010年2月8日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏