2016.11.30
カンガルーの本棚 父の素顔
朝井まかてさんの「阿蘭陀西鶴」(講談社文庫)を、読みました。
「好色一代男」「好色五人女」「日本永代蔵」「世間胸算用」など、江戸初期に浮世草子の作者として一世を風靡した井原西鶴の半生を、娘の目から描いた作品です。
「好色一代男」を語る場面では、「読む者はな、それを己に重ね合わせて胸を躍らせたり口惜しがったりできる。・・・物語というのは自分の好きな時に好きなように読んで、百人おったら百通りの世之介が生まれるわけや」と、物語の本質を伝えます。
それでも、家族を顧みず、家族に貧しい暮らしを強いる父を許すことができず、父を見る目は冷たく凍ります。
母が早くして亡くなってからは、養子に出された二人の弟と離れて、父と二人の生活を余儀なくされます。
その中で、父の家族への情愛に気づき始めます。
人情時代小説を書くと、当代一の作者の期待通りの作品です。
2016年11月30日
いたやどクリニック 木村彰宏