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2025.03.13
カンガルーの本棚 体験格差って
今井悠介さんの「体験格差」(講談社現代新書)を、読みました。
子どもの貧困に対して、食糧援助や学習援助が行われていますが、
スポーツやピアノ、旅行や自然体験などの
「子ども期の体験」への援助の必要性はあまり認知されていません。
この一年の間に、学校以外の「体験機会がゼロ」の子どもは、
年収600万円以上の世帯は、11.3%に比して
年収300万円未満の世帯では、29.9%と
実に2.6倍の格差があります。
この格差は、世代を超えて受け継がれ、固定化するといいます。
この現状をどう打開していくのか
わたしたちの世代に突きつけられた、大きな課題です。
2025年3月13日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.03.07
カンガルーの本棚 助け助け合い
朝日新聞取材班「8がけ社会」(朝日新書)を読みました。
2024年度出生数の見通しは、68.5万人、前年比5.8%の減少です。
人口減から心配される労働力不足、購買力減、そして高齢化
介護や公共サービスを受けたくても受けられない
そんな時代が、目の前に迫っています。
本書は、その時代に合っても希望を持ち続けることができる
社会の在り方を模索していきます。
若者と高齢者が対立するのではなく、一緒にこの危機を乗り越える仲間なのです。
この言葉が、カギになるのではないかと思いました。
いろいろなことを考えさせられる1冊です。
2025年3月7日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.03.01
カンガルーの本棚 夜空を見上げて
伊予原新さんの「オオルリ流星群」(角川文庫)を読みました。
舞台は、周囲を山に囲まれた神奈川県秦野市
そこに、東京の天文台をやめた女性 彗子が帰ってきます。
町で彼女を見かけた高校の同級生が、声をかけはじめ
物語は動き出します。
受験をひかえた高校3年生の時、最後の文化祭で彼らが挑戦したのは
空き缶をつなぎ合わせて作った、オオルリのタペストリー
45才になった彗子は、この街に私設天文台を作りたいと願い
高校3年をともに過ごした彼らもまた、
天文台づくりにこれからの人生の過ごし方を重ね合わせていきます。
「人間はだれしも、一つの星を見つめながら歩いている。
ある者にとってはそれは叶えたい夢かもしれないし、
またある者にとっては到達すべき目標かもしれない」
直木賞を受賞した伊予原さんの、心を揺さぶる作品です。
2025年3月1日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.02.24
カンガルーの本棚 未来への挑戦
人口戦略会議編「地方消滅2」(中公新書)を、読みました。
少子化問題は、いろいろな場所で語られています。
言葉から受ける危機感と、頭で描く未来像とのギャップ
個人のしあわせと、社会のしあわせとのギャップ
子どもを産み育てることを願う若者が、
安心して結婚、出産ができるような
子どもを育てる幸せを噛み締められるような社会、
共同養育社会を提案されています。
そのために必要なことは、予算は、政治は・・
未来をなげくだけではなく、暮らしやすい未来へも言及した良書です。
2025年2月24日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.02.17
カンガルーの本棚 この国の先に見えるもの
河合雅司先生の「縮んで勝つ」(小学館新書)を読みました。
人口問題の専門家である河合先生が、
少子化、人口減時代にこの国が取るべき戦略を提言されている新書です。
今、出生数は年に4.5%の比率で減少していると言われます。
出生数の減少は、20年後の子どもを設ける可能性がある世代の減少につながり、
仮に4.5%の減少率が続くと、10年後には今の出生数の63%になると計算されます。
出生数の減少は、20年後の若者の労働力の減少につながります。
私企業だけでなく、公務の運営にも大きな支障が生じます
そして、その対策は、
河合先生のご著書をお読みいただければと思います。
2025年2月17日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.01.22
カンガルーの本棚 仮面に隠された素顔とは
山本甲士さんの「つめ」(小学館文庫)を読みました。
近所に住む女性とトラブルになった主人公の朱音
頼みもしていない高級な寿司や業者が現れ、
家のガラスが割られ、プランターがひっくり返されるなど、
嫌がらせはひどくなっていきます。
力には力をと行動する朱音
再婚相手の連れ子の裕也は、徹底した非暴力主義
クラスでいじめを受けても、身を守るだけでじっと耐え続けます。
無理やり当てられた参観日での発表で、
裕也は動物から学んだ身の守り方を披露します。
その後の裕也の行動が、朱音とクレーマー女との間に何をもたらすのか。
感涙必死の名作です。
2025年1月22日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.01.17
カンガルーの本棚 こっちに来てよマジックチャン
山本甲士さんの「迷犬マジック4」(双葉文庫)を読みました。
迷い込んでくると幸運がついてくると言われる迷犬マジック
飼い主さんのもとから家出して、ふらり現れたのは4人の男女の元
仕事に恵まれないカバン職人
つぶれかけのスーパーの社長さん
ブラック企業から抜けようとする青年
マジックは、彼ら、彼女らに、どんな幸運を運んでくるのでしょう。
わたしのところにも、マジックちゃんが宝くじをくわえて来ないかな。
2025年1月17日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.12.07
カンガルーの本棚 記憶の底から掬い上げるもの
町田そのこさんの「星を掬う」(中公文庫)を読みました。
母に捨てられて、育てられた父や祖父母がなくなった後、
出会った男は、とんでもないDV男
ふとしたことから、何十年ぶりに再会した母は、
認知症を患い、娘の顔もわからなくなっていました。
憎しみと悲しみと、許しと拒絶と、
シェルターで一緒に暮らす女性たちとの日常の中で、
なぜ母が私を捨てたのか、
そして母が何を望んでいたのかが明らかになっていきます。
薄れゆく記憶の底から、母は何を掬い上げようとしたのか
今年のカンガルーの本棚の中で、一押しの作品です。
2024年12月7日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.11.16
カンガルーの本棚 ひとりの男の生き方
遠田潤子さんの「雨の中の涙のように」(光文社文庫)を読みました。
アイドルから役者に転身し、年代を問わずに人気を博する青年、葉介
彼と出会う様々な年代の、そして住む土地の人々が織りなす物語
葉介に秘められた過去とは
その謎が、次第に明らかになっていきます。
華やかな芸能界で生きるひとりの男の生き方を描いた、胸にしみる作品です。
2024年11月16日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.31
カンガルーの本棚 クラスの一人ひとり
森絵都さんの「クラスメイツ前期・後期」(角川文庫)を読みました。
中学1年A組の24人の生徒たち
目立つ生徒、控えめな生徒 その一人ひとりの生徒が主人公の物語です。
おとなになっていく道筋を、おそれながら、悩みながら
それぞれが、言葉にしたり、行動であらわしたりして 歩いていきます。
カンガルーが過ごした青春も、視点を変えればいろいろな見え方があるんだなと、
ちょっぴり感傷的になりました。
子どもの心の奥底を描く、名作です。
2024年10月31日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.29
カンガルーの本棚 甘すぎてささらない
坂本司さんの「ショートケーキ」(文春文庫)を読みました。
ショートケーキをめぐる、5つの短いお話しです。
ママ友3人の奮闘を描く「ままならない」
おいしいものを食べていても、頭の中は赤ちゃんのことでいっぱい
そうなのかと納得するも、ショートケーキのお話と私の相性があいません。
わたしが、ケーキにそれほど執着しないためなのかな。
まっ、人それぞれに好みがあるのは、仕方ないことなのですね。
2024年10月29日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.25
カンガルーの本棚 下絵からの出会い
青山美智子さんの「赤と青とエスキース」(PHP文芸文庫)を読みました。
物語は、オーストラリアのメルボルンから始まります。
留学先の大学や下宿にもなじめず、下を向いて歩く日々を過ごしていた女子大生レイは
留学が終わるまでの期間限定で付き合いはじめたブーと呼ばれる男の子から、
友人の貧しい画家の、モデルになってほしいと頼まれます。
描かれたエスキースは、日本に渡り、ふたりを結び付けます。
エスキースとは、フランス語で「下絵」や「素描」という意味ですが、
ふたりの出会いと、その後の人生を表しているように思いました。
一枚のエスキースがつなぐ、素敵な恋の物語です。
2024年10月25日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.23
カンガルーの本棚 ことばの魔法
森絵都さんの「あしたのことば」(新潮文庫)を、読みました。
お話しは、子どもがであう「ことばの」不思議
「どっち」とたずねられ「どっちかなあ」「どっちもかなあ」と、
すぐには答えが出せない小学生
苦手な子とのつきあいに悩む女の子は、「馬があわへんだけや」ということばに救われます。
友だちとうまくいかなくなり、長いメールを書く中で、
その子も自分が口にしたことばに、縛られているのかもしれないと気づきます。
大勢の中ではことばを交わさないクラスの子が、
とても豊かな音への感性を持っていることに気づき、親しくなっていくお話や
笑い転げるほど楽しい遊びをした後で、
ともだちから「またあした」とことばをかけてもらい、
この街で暮らす自信を持ち始める転校生
どの子も、ほんのちいさな言葉に悩み、救われます。
やさしい文体の中に、ことぼの魔法がたくさん詰まったおすすめの1冊です。
2024年10月23日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.20
カンガルーの本棚 下絵からの出会い
青山美智子さんの「赤と青とエスキース」(PHP文芸文庫)を読みました。
物語は、オーストラリアのメルボルンで始まります。
留学先の大学や下宿にもなじめず、下を向いて歩く日々を過ごしていた女子大生レイは
留学が終わるまでの期間限定で付き合いはじめたブーと呼ばれる男の子から、
友人の貧しい画家の、モデルになってほしいと頼まれます。
描かれたエスキースは、日本に渡り、ふたりを結び付けます。
エスキースとは、フランス語で「下絵」や「素描」という意味ですが、
ふたりの出会いと、その後の人生を表しているように思いました。
一枚のエスキースがつなぐ、素敵な恋の物語です。
2024年10月20日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.11
カンガルーの本棚 遊園地の魔女
寺地はるなさんの「ほたるいしマジカルランド」(ポプラ文庫)を読みました。
舞台は、大阪にある遊園地「マジカルランド」
悩みを抱えながら、そこで働く人の毎日の生活をコミカルにえがきます。
それぞれが不器用で、他所では働けそうにない人ばかり。
遊園地の魔女は、そんな彼らに輝ける場所を見つけ、励まします。
人を幸せにする魔女には、カンガルーは成れそうにもありません。
2024年10月11日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.05
カンガルーの本棚 鏡に写して
椰月美智子さんの「ミラーワールド」(角川文庫)を読みました。
その世界は、女性が権力を握り、男は家庭に入り女性を支えます。
政治家も、企業の役員もみな女性
男性に対するセクハラが、公然と行われています。
その世界にあっても、女男平等の声をあげる人たち
少しずつ少しずつ、その声が届き始めます。
男という言葉を女に、女という文字を男に変えるだけで、
違って見えるこの世界。
わたしたちの心の奥底に、知らないままに沈殿している、男女不平等の価値観を
一気に洗い出してくれる1冊です。
2024年10月5日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.02
カンガルーの本棚 風呂敷を巻いたネコ
重松清さんの「さすらい猫ノアの伝説」(講談社文庫)を読みました。
風呂敷を首に巻いた黒猫「ノア」の二つのお話し。
ひとつ目は、新人の先生を守ろうとする子どもたちのお話し
二つ目は、転校を繰り返す少女の、出会いと別れのお話しです。
「忘れものはなんですか。大切なものはなんですか」
風呂敷にネコと一緒に入っていた、紙が問いかける謎
その謎を問い続けることで、子どもたちは少し大人に育っていきます。
いつまでも心に残る、重松清さんの作品です。
2024年10月2日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.28
カンガルーの本棚 半身で働こう
三宅香帆さんの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(集英社新書)を読みました。
働いていると時間が無くなるので、本が読めなくなるって、そんなのあたりまえ
そう思って読み進めると、読書を軸に書かれた社会論であることに気づきました。
その時代その時代に何をもって本は読まれたのか
そしてSNS全盛の時代に、なぜ本は読まれなくなったのか
作者は自由時間の制約とともに、
必要な情報だけを最短、最小の時間で取り入れる文化の限界を指摘されます。
人とつながるために、情報だけでなく
ノイズ(歴史や他作品の文脈、想定していない展開)をいとわないを受け入れる余裕
そのためには、半身で働く大切さを強調されます。
自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする
帰宅途中のカフェ読書を習慣にする
書店に行く
今まで読まなかったジャンルに手を出す
無理をしない
新聞の書評にこの本の奥深さに触れられていたのを思い出し、手に取った一冊。
読書を通じて人生の過ごし方を教えてくれる新書です。
2024年9月28日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.12
カンガルーの本棚 公の考えは
宮地美陽子さんの「首都防衛」(講談社現代新書)を読みました。
テーマはズバリ、巨大地震発生後の東京の生き残り方
南海トラフ地震、首都直下型地震、そして富士山の噴火
その時、どのような被害が予測され、
国や東京都などの行政は、どのように対応するのか
また、今どのような準備が行われているのかが書かれています。
物足りなさは、個人の準備をどのようにするのか
大地震発生時「場所別行動リスト」が載せられていますが
もう少しページを割いて、提言してほしかったかな
今後も、同趣旨の震災関連の本が出版されるでしょうから、
その時にフォローするということで、この本を閉じました。
2024年9月12日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.08
カンガルーの本棚 多くの人に知ってもらいたいと
椰月美智子さんの「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」(双葉文庫)を読みました。
そう、先日ご紹介したNHKドラマの原作本です。
ドラマが終り、楽天ブックスで原作本を探しましたが見つからず
翌朝一番に、いたやど駅前の本屋さんに駆け込むと、
「おいてありますよ」の一声
手に取って、お昼休みに読みました。
ドラマとは違う伝わり方に、改めて戦争の悲惨さと、
戦争は起こしてはならないという気持ちが強くなりました。
児童小説の域を超えた、国民的名作にこの夏出会うことができました。
2024年9月8日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏