-
2020.08.01
カンガルーの本棚 欠けては満ちて
森絵都さんの「みかづき」(集英社文庫)を、読みました。
物語は、昭和36年に始まります。
小学校の用務員として勤め始めた吾郎は、
寝泊まりする部屋に子ども達を集めて、勉強を教え始めます。
千明との出会い、そして塾の経営
戦後教育の変革に翻弄されながら、吾郎の子とど、そして孫へと
教育の心は、受け継がれていきます。
満ちては欠けて、また満ちていく月のように
物語もまた、昭和から平成へと流れていきます。
600ページを超える大作ですが、一気に読み進むおもしろさでした。
2020年8月1日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.07.19
カンガルーの本棚 新自由主義の終焉
井手英策さんの「欲望の経済を終わらせる」
(インターナショナル新書)を読みました。
小さな政府、自己責任、トリクルダウンと来れば、新自由主義
20年が過ぎ、分断と格差社会以外の何も生まなかった新自由主義が
多くの人々に、なぜ受けいられたのか
井手先生は、歴史からそのわけを解き明かし
次の経済のあり方を展望されます。
経済の本というと、かたぐるしく思われますが、
明るい未来を展望することができ、
ワクワクしながら読み終えることができました。
2020年7月19日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.07.01
カンガルーの本棚 ゴリラの子人間の子
山極寿一先生の「スマホを捨てたい子どもたち」(ポプラ新書)を、読みました。
山極先生は、ゴリラの世界的な研究で知られ、
京都大学総長を務められている先生です。
人間の社会を支える共感力は、
共同保育、共食、音楽と踊りという行為で進化してきました。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚をみんなで共有して、
楽しい時間を過ごすことで、
信頼という財産を作ることにつながると述べられます。
現実世界で仲間とつながることを避けるスマホ社会は
人間社会の退化につながる危うさを感じると述べられます。
コロナ禍が続き、三蜜を避ける今の社会において、
難しいけれど、乗り越えなければならない課題だと思いました。
ゴリラについての本を、もう少し読みたくなりました。
2020年7月1日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.06.28
カンガルーの本棚 大切なことは
稲垣栄洋先生の「はずれ者が進化をつくる」(ちくまプリマー新書)を、読みました。
稲垣先生は雑草の研究者
雑草を観察することで、生物界の多様性、本当に大切なことに想いを馳せられます。
自然界での強さには、競争に勝つこと、環境にじっと耐えること、そして変化を乗り越える力をもつこと、この3つがあるといわれます。
雑草魂は、踏まれても立ち上がるのではなく、
踏まれても大切なことを見失わないことだと、説かれます。
コロナ禍の苦境の中にあって、おすすめの一冊です。
2020年6月28日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.06.27
カンガルーの本棚 父親ごっこ
宮部みゆきさんの「ステップファーザー・ステップ」
(青い鳥文庫)を、読みました。
ステップファーザーは、継父がその意味
主人公は、プロの泥棒
ふとしたいきさつから、双子の父親役になります。
次々と起こる事件を、解決していくミステリー小説
子ども向けに編集され直した本ですが、
楽しいひと時を過ごすことができました。
2020年6月27日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.06.14
カンガルーの本棚 生き延びた子孫
藤田紘一郎先生の「免疫力 正しく知って、正しく整える」(ワニブックス新書)を、読みました。
新型コロナウイルスの流行で、家庭の中で過す生活が続いています。
子ども達の肌は、日に焼けず白くなり、おなかもぽっちゃり気味
体力の低下が心配です。
藤田先生は、「私たち現代人は、たびかさなる病原体からの攻撃に負けず、命をつないできた祖先の生き残り」と言われます。
生まれながらに強靭な免疫力を持つ私たちが、どのような生活を心がけると良いのか
食生活、腸内細菌、生活リズムなどの視点から、注意すべき点を教えてくださいます。
発刊されたばかりの新書ですが、ご一読されてはいかがでしょうか。
2020年6月14日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.06.06
カンガルーの本棚 ゆるし
遠田潤子さんの「オブリヴィオン」(光文社文庫)を、読みました。
ふとしたはずみで、最愛の妻を死なせてしまった森二
父親から虐待され、生き延びて、
あきらめていた末につかんだ幸せな家庭を、
自分の手で壊してしまう 男の絶望
タンゴの名曲「オブリヴィオン」の深い音色がつつみます。
忘却と赦しという、ふたつの意味を持つオブリヴィオンという
言葉に込められた哀しみの中で、
それでも前を向いて歩こうとする、主人公の姿に救われます。
2020年6月6日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.05.17
カンガルーの本棚 人とのつながり
カミュの「ペスト」(新潮文庫)を、読みました。
新型コロナ感染症で、社会が大混乱している今、
多くの人に読まれている、カミュの「ペスト」
アルジェリアの都市を襲う病魔と、都市封鎖
不条理な自然の猛威を前に、希望を失い、逼塞する人々を
医師リウーの目で記録されます。
人と人とのつながりが失われて時に、
人とのつながりこそが、
生きていく源であることを教えてくれる1冊です。
2020年5月17日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.05.07
カンガルーの本棚 多様性の悩み
ブレディみかこさんの
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)を、読みました。
移民が多く暮らし、むかしからの階級社会が湯づくイギリスで、
アイルランド人の夫との間に生まれた中学生と日本人の母との物語
学校間格差や、レイシズム LGBTQ
ガイジン ハーフ ダブル ハーフ&ハーフ
ハードな問題を母子で考えて、育っていく
こういう分厚い社会体験が、市民を作っていくのだなと思ってみたり
今の日本という国のありようを、考えさせられる1冊です。
2020年5月7日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.05.04
カンガルーの本棚 頭のよさって
斎藤孝先生の「本当の頭のよさってなんだろう?」(誠文堂)を、読みました。
学校がお休みになり、ネット授業が広がってきています。
学校の役割り、学ぶ意味が、今ほど問われている時はないと思います。
試験でいい成績をとること、いい大学に入ること
そんな頭のよさではなく、一生使えるものの考え方を身につけよう
幸せになるために頭を使おうと、斎藤先生は力説されます。
本当の頭のよさってなに?
子どもに問われたときに、おとなが答えを考える助けになる1冊です。
2020年5月4日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.05.03
カンガルーの本棚 小さな折り紙
ほしおさなえさんの「活版印刷三日月堂」(ポプラ文庫)を、読みました。
シリーズ6冊目のサブタイトルは「小さな折り紙」
6つの短いお話の中で、最後の「小さな折り紙」に心ひかれました。
こころの奥深くに刻まれた、小さな時の思い出が、
子ども達を、まっとうなおとなに育てていくことを信じて・・
保育を受け継いでいく主人公たちに、敬意を伝えたくなる作品です。
2020年5月3日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.05.01
カンガルーの本棚 こどもの頃の
椰月美智子さんの「未来の手紙」(光文社文庫)を、読みました。
少年少女の5つのお話が納められた短編集
どのお話が心に残るかは、あなた次第
わたしは、「しいちゃん」が、お気に入りです。
小学校6年生の女の子のりえちゃんと、おかあさん、おばあさんの日常を描いた物語
「大好き」って言葉は、伝染するんだね
のりえちゃんの言葉に、わたしも大きくうなずいてしまいました。
2020年5月1日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.04.26
カンガルーの本棚 スマホは依存物?
中山秀紀先生の「スマホ依存から脳を守る」(朝日新書)を、読みました。
スマホは、スマートフォンの略
スマートという意味は、本来「痛みを感じる」という意味だそうです。
その機敏なこころの動きから、スマートという言葉は「かしこい」という意味に
スマートフォンは、賢くて便利で
でも、他人の不幸に痛みを感じるかというと、
どうやら そのような賢さは 持ち合わせていないように思います。
コロナ禍で、学校が長期のお休みになり
子ども達は、スマホやゲーム機を片手に時を過ごしています。
いつか世の中が落ち着きを取り戻し、
あとには、ゲーム依存症の子どもが数多く取り残されている
そんな悪夢のような未来を現実としないためにも、
この本が広く読まれることを、願います。
2020年4月26日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.03.25
カンガルーの本棚 親から子へと
友田明美先生の「親の脳を癒せば子どもの脳は変わる」
(NHK出版新書)を、読みました。
発達障害と間違われやすい、マルトリートメントによる愛着障害
虐待の奥にある、親自身が受けてきた心の傷
友田先生は、最新の画像機器を駆使されて、
子どもの脳に起きている変化を、見える化する研究に取り組んでおられます。
適切な育児ができる養育脳を育てるために、若者が乳幼児とふれあい
社会で子どもを育てる「とも育て」を提唱されます。
臨床で得た経験から、研究へ
そして社会の中での実践へと、友田先生の挑戦は続きます。
「子どもの脳を傷つける親たち」に続く、野心作です。
2020年3月25日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.03.20
カンガルーの本棚 世話を焼く社会
岡田尊司先生の「死に至る病」(光文社新書)を、読みました。
愛着障害について書かれた岡田先生の著書をよむのは、3冊目
驚きと不思議さと、
そして、自分が今まで生きてきたよりどころを、深く考えさせられます。
愛着は、世話を焼く仕組み
世話を介して、世話をする者にも、される者にも、安心と信頼の絆が育まれる。
世話をすることによって愛着は育まれ、それは喜びとなり、生きる意味になる。
ページを繰るごとに、岡田先生の深い言葉に出合います。
世話を焼く社会、医療生協の役割りの大きな意味もそこに感じます。
手の届くところにおき、繰り返し読もうと思う1冊です。
2020年3月20日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.03.07
カンガルーの本棚 情けは人の
岡田尊司先生の「愛着障害の克服」を、読みました。
長く医療少年院で勤務され、今は精神科クリニックで働かれている先生は
出会われた患者さんの背景に、愛着の障がいが見られるといわれます。
子ども時代に満たされなかった思いを、おとなになってからも引きずられて
苦しんでおられる方の多さに驚きます。
ペットや動物の世話をする、困っている人の面倒を見る、自分自身の子どもを育てる
こうした体験は、自身の愛着:アタッチメントを見直し育てる経験となるといわれます。
情けは人のためならず
愛着をキーワードに、まわりの方との付き合い方を見直そうと思います。
読まれると、自分が変われるきっかけがもらえますよ。
2020年3月7日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.02.02
カンガルーの本棚 生きづらさをかかえる人たち
岡田尊司先生の「過敏で傷つきやすい人たち」(幻冬舎新書)を、読みました。
HSPあるいはHSCという言葉をご存知ですか
過敏で傷つきやすい大人や子ども達をさす言葉です。
従来は自閉スペクトラム症の人に多いといわれていましたが
岡田先生は、愛着障害の観点から、この病気を説明されます。
そして、その対処法とは、
生きづらさに悩まれている方に、お勧めの1冊です。
2020年2月2日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.01.21
カンガルーの本棚 そうだ美術館に行こう
原田マハさんの「デトロイト美術館の奇跡」(新潮文庫)を、読みました。
デトロイトといえば自動車産業の発展と凋落の波に翻弄された大都市という
知識しか持っていなかったのですが、
市の財政破綻を前に負債軽減の目的で、
美術館の所蔵作品を売却する計画があり、
市民と全米の財団とがそれを救ったという出来事を
この本を通じて知りました。
この小説は実話をもとに、芸術を友として愛する市民が描かれています。
お休みの日にゆっくりと、美術館に足を運びたくなる気持ちにさせる1冊です。
2020年1月21日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2020.01.20
カンガルーの本棚 地球気候の歴史
横山祐典先生の「地球46億年気候大変動」(講談社)を、読みました。
地球温暖化の原因として、大気中の二酸化炭素濃度の上昇が考えられ、
地球規模の対策が進められています。
その一方で、二酸化炭素説に疑問を投げかける論評もあり
本書を手に取り、勉強することにしました。
46億年の歴史の中では、氷期と間氷期が繰り返され、
その大変動は、大気中の炭素の循環と、
地球の公転軌道のブレによると、先生は解説されます。
しかし、人間の活動による、近年の二酸化炭素濃度の急上昇は
地球がもつ気候の循環を、大きく揺るがす可能性があると危惧されます。
地球温暖化を考える時に、知識の基本となる良書です。
2020年1月20日
いたやどクリニック 木村彰宏
-
2019.11.08
カンガルーの本棚 いきづらさをもつ子どもたち
明橋大二先生の「何かほかの子と違う?HSCの育ち方」(1万年堂出版)を読みました。
HSCは、Highly Sensitive Child(ひといちばん敏感な子ども)の略です
HSCは、DOSEと略される4つの特徴があるとされます。
D 深く考える
O 過剰に刺激を受けやすい
S 感情反応が強く、共感性が高い
E ささいな刺激を察知する
過敏な子どもといえば、従来アスペルガーの子どもを考えていましたが、
HSCは、S 感情反応が強く、共感性が高いところが違います。
そう考えると、外来にも何人ものHSCの子どもが通われています。
もう少し勉強して、理解を深めていきたいと思います。
2019年11月8日
いたやどクリニック 木村彰宏