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2025.01.22
カンガルーの本棚 仮面に隠された素顔とは
山本甲士さんの「つめ」(小学館文庫)を読みました。
近所に住む女性とトラブルになった主人公の朱音
頼みもしていない高級な寿司や業者が現れ、
家のガラスが割られ、プランターがひっくり返されるなど、
嫌がらせはひどくなっていきます。
力には力をと行動する朱音
再婚相手の連れ子の裕也は、徹底した非暴力主義
クラスでいじめを受けても、身を守るだけでじっと耐え続けます。
無理やり当てられた参観日での発表で、
裕也は動物から学んだ身の守り方を披露します。
その後の裕也の行動が、朱音とクレーマー女との間に何をもたらすのか。
感涙必死の名作です。
2025年1月22日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2025.01.17
カンガルーの本棚 こっちに来てよマジックチャン
山本甲士さんの「迷犬マジック4」(双葉文庫)を読みました。
迷い込んでくると幸運がついてくると言われる迷犬マジック
飼い主さんのもとから家出して、ふらり現れたのは4人の男女の元
仕事に恵まれないカバン職人
つぶれかけのスーパーの社長さん
ブラック企業から抜けようとする青年
マジックは、彼ら、彼女らに、どんな幸運を運んでくるのでしょう。
わたしのところにも、マジックちゃんが宝くじをくわえて来ないかな。
2025年1月17日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.12.07
カンガルーの本棚 記憶の底から掬い上げるもの
町田そのこさんの「星を掬う」(中公文庫)を読みました。
母に捨てられて、育てられた父や祖父母がなくなった後、
出会った男は、とんでもないDV男
ふとしたことから、何十年ぶりに再会した母は、
認知症を患い、娘の顔もわからなくなっていました。
憎しみと悲しみと、許しと拒絶と、
シェルターで一緒に暮らす女性たちとの日常の中で、
なぜ母が私を捨てたのか、
そして母が何を望んでいたのかが明らかになっていきます。
薄れゆく記憶の底から、母は何を掬い上げようとしたのか
今年のカンガルーの本棚の中で、一押しの作品です。
2024年12月7日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.11.16
カンガルーの本棚 ひとりの男の生き方
遠田潤子さんの「雨の中の涙のように」(光文社文庫)を読みました。
アイドルから役者に転身し、年代を問わずに人気を博する青年、葉介
彼と出会う様々な年代の、そして住む土地の人々が織りなす物語
葉介に秘められた過去とは
その謎が、次第に明らかになっていきます。
華やかな芸能界で生きるひとりの男の生き方を描いた、胸にしみる作品です。
2024年11月16日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.31
カンガルーの本棚 クラスの一人ひとり
森絵都さんの「クラスメイツ前期・後期」(角川文庫)を読みました。
中学1年A組の24人の生徒たち
目立つ生徒、控えめな生徒 その一人ひとりの生徒が主人公の物語です。
おとなになっていく道筋を、おそれながら、悩みながら
それぞれが、言葉にしたり、行動であらわしたりして 歩いていきます。
カンガルーが過ごした青春も、視点を変えればいろいろな見え方があるんだなと、
ちょっぴり感傷的になりました。
子どもの心の奥底を描く、名作です。
2024年10月31日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.29
カンガルーの本棚 甘すぎてささらない
坂本司さんの「ショートケーキ」(文春文庫)を読みました。
ショートケーキをめぐる、5つの短いお話しです。
ママ友3人の奮闘を描く「ままならない」
おいしいものを食べていても、頭の中は赤ちゃんのことでいっぱい
そうなのかと納得するも、ショートケーキのお話と私の相性があいません。
わたしが、ケーキにそれほど執着しないためなのかな。
まっ、人それぞれに好みがあるのは、仕方ないことなのですね。
2024年10月29日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.25
カンガルーの本棚 下絵からの出会い
青山美智子さんの「赤と青とエスキース」(PHP文芸文庫)を読みました。
物語は、オーストラリアのメルボルンから始まります。
留学先の大学や下宿にもなじめず、下を向いて歩く日々を過ごしていた女子大生レイは
留学が終わるまでの期間限定で付き合いはじめたブーと呼ばれる男の子から、
友人の貧しい画家の、モデルになってほしいと頼まれます。
描かれたエスキースは、日本に渡り、ふたりを結び付けます。
エスキースとは、フランス語で「下絵」や「素描」という意味ですが、
ふたりの出会いと、その後の人生を表しているように思いました。
一枚のエスキースがつなぐ、素敵な恋の物語です。
2024年10月25日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.23
カンガルーの本棚 ことばの魔法
森絵都さんの「あしたのことば」(新潮文庫)を、読みました。
お話しは、子どもがであう「ことばの」不思議
「どっち」とたずねられ「どっちかなあ」「どっちもかなあ」と、
すぐには答えが出せない小学生
苦手な子とのつきあいに悩む女の子は、「馬があわへんだけや」ということばに救われます。
友だちとうまくいかなくなり、長いメールを書く中で、
その子も自分が口にしたことばに、縛られているのかもしれないと気づきます。
大勢の中ではことばを交わさないクラスの子が、
とても豊かな音への感性を持っていることに気づき、親しくなっていくお話や
笑い転げるほど楽しい遊びをした後で、
ともだちから「またあした」とことばをかけてもらい、
この街で暮らす自信を持ち始める転校生
どの子も、ほんのちいさな言葉に悩み、救われます。
やさしい文体の中に、ことぼの魔法がたくさん詰まったおすすめの1冊です。
2024年10月23日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.20
カンガルーの本棚 下絵からの出会い
青山美智子さんの「赤と青とエスキース」(PHP文芸文庫)を読みました。
物語は、オーストラリアのメルボルンで始まります。
留学先の大学や下宿にもなじめず、下を向いて歩く日々を過ごしていた女子大生レイは
留学が終わるまでの期間限定で付き合いはじめたブーと呼ばれる男の子から、
友人の貧しい画家の、モデルになってほしいと頼まれます。
描かれたエスキースは、日本に渡り、ふたりを結び付けます。
エスキースとは、フランス語で「下絵」や「素描」という意味ですが、
ふたりの出会いと、その後の人生を表しているように思いました。
一枚のエスキースがつなぐ、素敵な恋の物語です。
2024年10月20日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.11
カンガルーの本棚 遊園地の魔女
寺地はるなさんの「ほたるいしマジカルランド」(ポプラ文庫)を読みました。
舞台は、大阪にある遊園地「マジカルランド」
悩みを抱えながら、そこで働く人の毎日の生活をコミカルにえがきます。
それぞれが不器用で、他所では働けそうにない人ばかり。
遊園地の魔女は、そんな彼らに輝ける場所を見つけ、励まします。
人を幸せにする魔女には、カンガルーは成れそうにもありません。
2024年10月11日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.05
カンガルーの本棚 鏡に写して
椰月美智子さんの「ミラーワールド」(角川文庫)を読みました。
その世界は、女性が権力を握り、男は家庭に入り女性を支えます。
政治家も、企業の役員もみな女性
男性に対するセクハラが、公然と行われています。
その世界にあっても、女男平等の声をあげる人たち
少しずつ少しずつ、その声が届き始めます。
男という言葉を女に、女という文字を男に変えるだけで、
違って見えるこの世界。
わたしたちの心の奥底に、知らないままに沈殿している、男女不平等の価値観を
一気に洗い出してくれる1冊です。
2024年10月5日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.10.02
カンガルーの本棚 風呂敷を巻いたネコ
重松清さんの「さすらい猫ノアの伝説」(講談社文庫)を読みました。
風呂敷を首に巻いた黒猫「ノア」の二つのお話し。
ひとつ目は、新人の先生を守ろうとする子どもたちのお話し
二つ目は、転校を繰り返す少女の、出会いと別れのお話しです。
「忘れものはなんですか。大切なものはなんですか」
風呂敷にネコと一緒に入っていた、紙が問いかける謎
その謎を問い続けることで、子どもたちは少し大人に育っていきます。
いつまでも心に残る、重松清さんの作品です。
2024年10月2日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.28
カンガルーの本棚 半身で働こう
三宅香帆さんの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(集英社新書)を読みました。
働いていると時間が無くなるので、本が読めなくなるって、そんなのあたりまえ
そう思って読み進めると、読書を軸に書かれた社会論であることに気づきました。
その時代その時代に何をもって本は読まれたのか
そしてSNS全盛の時代に、なぜ本は読まれなくなったのか
作者は自由時間の制約とともに、
必要な情報だけを最短、最小の時間で取り入れる文化の限界を指摘されます。
人とつながるために、情報だけでなく
ノイズ(歴史や他作品の文脈、想定していない展開)をいとわないを受け入れる余裕
そのためには、半身で働く大切さを強調されます。
自分と趣味の合う読書アカウントをSNSでフォローする
帰宅途中のカフェ読書を習慣にする
書店に行く
今まで読まなかったジャンルに手を出す
無理をしない
新聞の書評にこの本の奥深さに触れられていたのを思い出し、手に取った一冊。
読書を通じて人生の過ごし方を教えてくれる新書です。
2024年9月28日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.12
カンガルーの本棚 公の考えは
宮地美陽子さんの「首都防衛」(講談社現代新書)を読みました。
テーマはズバリ、巨大地震発生後の東京の生き残り方
南海トラフ地震、首都直下型地震、そして富士山の噴火
その時、どのような被害が予測され、
国や東京都などの行政は、どのように対応するのか
また、今どのような準備が行われているのかが書かれています。
物足りなさは、個人の準備をどのようにするのか
大地震発生時「場所別行動リスト」が載せられていますが
もう少しページを割いて、提言してほしかったかな
今後も、同趣旨の震災関連の本が出版されるでしょうから、
その時にフォローするということで、この本を閉じました。
2024年9月12日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.08
カンガルーの本棚 多くの人に知ってもらいたいと
椰月美智子さんの「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」(双葉文庫)を読みました。
そう、先日ご紹介したNHKドラマの原作本です。
ドラマが終り、楽天ブックスで原作本を探しましたが見つからず
翌朝一番に、いたやど駅前の本屋さんに駆け込むと、
「おいてありますよ」の一声
手に取って、お昼休みに読みました。
ドラマとは違う伝わり方に、改めて戦争の悲惨さと、
戦争は起こしてはならないという気持ちが強くなりました。
児童小説の域を超えた、国民的名作にこの夏出会うことができました。
2024年9月8日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.09.02
カンガルーの本棚 まずは外見から
山本甲士さんの「わらの人」(文春文庫)を読みました。
街中にある散髪屋さんの女性の店長は、ひとりでお店を切り盛りしています。
あまりにも心地よいマッサージに、心と体をゆだねていると、
耳もとで、なにやらボソボソと声がします。
夢心地の中で、適当に相槌を打ち、
目覚めて鏡に映る姿を目にすると、
そこには、まるで別人の姿が座っています。
パワハラに負けそうになっている女性の事務員
建設会社の不正行為に憤りながら、事故で記憶喪失に陥ってしまった男性
就活がうまくいかず、実家の家業を継いでみようかと悩んでいる女子大生
会長の孫のパワハラに、心が折れそうになっている男性
街を夕顔で飾ろうと奮闘する、おじいちゃんと孫
だれもが散髪屋さんで知らぬ間にイメージチェンジをされ、
勇気をもって自分の人生を切り開いていく
痛快で、大きな教訓をいただけた一冊です。
2024年9月2日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.08.29
カンガルーの本棚 持ってるのか、いないのか
山本甲士さんの「海獣ダンス」(小学館文庫)を読みました。
主人公は、町役場で働く青年です。
東京の大企業を退職し、地元の街に帰ってきた男性が出会うのは
海辺を泳ぐ、謎の海洋生物
町おこしに躍起になる町長のもと、いろいろな企画を立ち上げ
そして、口にできない秘密を知ってしまいます。
平凡な人生を過ごそうとする青年が、
もしかして、持ってる人だったりしてと、
ありそうで、なさそな楽しい一冊です。
2024年8月29日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.08.22
カンガルーの本棚 富士山のことも知っておこうか
鎌田浩毅先生の「富士山噴火と南海トラフ」(講談社ブルーバックス)を読みました。
日向沖地震の後に出された、「南海トラフ巨大地震注意」
防災グッズを求めて、ホームセンター巡りをすると、
防災グッズコーナーの棚は、ほとんどが空の状態です。
鎌田先生は、巨大地震の後にやってくる「富士山噴火」への警鐘を鳴らされます。
火山流、溶岩流、火山弾、火砕流、そして泥流
噴火後に続く災害は、この国を分断します。
情報網が混乱し、流通がとまり、移動が難しくなる
そんな時代が来ないことを願うばかりですが、
まずは知識を身につけて、備えを確かめる。
本書は、マスコミでは取り上げない、
巨大地震後のもう一つの危機を伝えてくれます
2024年8月22日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.08.18
カンガルーの本棚 十手をふところに
宮部みゆきさんの「初ものがたり完本」(PHP文芸文庫)を読みました。
本所深川あたりを預かる岡っ引き親分が出くわす、9つの人情物語。
殺しの謎解きから、大店のうちわもめ
人を手にかけ、行方をくらまし、
その裏にある、悲しい暮らし
やりきれない気持ちの親分が足を運ぶのは、
意味ありの屋台の親父の元
大江戸の夜は、静かにふけていきます。
2024年8月18日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏
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2024.08.01
カンガルーの本棚 出会いと別れと
高橋由太さんの「ちびねこ亭の思い出ごはん2」(光文社文庫)を読みました。
今回登場するニャンコは、黒猫、ハチワレ猫、ソラ猫、三毛猫のみなさんです。
恋人と会うために、母と会うために
今日も 思い出ごはんを食べに、
海辺の小さな食堂のドアが開きます。
会いたい人と会うことで、
その人が抱えている悲しみが、すこし溶けだしていくようです。
通勤電車の中で、お昼休みの時間に、するりと読める一冊です。
2024年8月1日
いたやどクリニック小児科 木村彰宏