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2016.09.23
カンガルーの本棚 あの日に帰りたい
荻原浩さんの「あの日にドライブ」(光文社文庫)を、読みました。
主人公は、大手銀行から、タクシードライバーに転職した中年男性。
不規則勤務で体は悲鳴をあげ、家族との関係もきしみはじめる
昔の自分に戻れるとしたら、いつ頃に自分からやり直せばよいのか
誰もが一度は考える問いに、答えは見つかりません。
ほろ苦く、それでいて一筋さす光を感じさせる作品です。
2016年9月23日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.09.09
カンガルーの本棚 赤に染まる街
重松清さんの「赤ヘル1975」(講談社文庫)を、読みました。
1975年の春から秋にかけての、広島の少年たちの物語。
父に連れられて、広島の街に住むことになったマナブ少年。
出合う人の心の中に、消えないでいる戦争の災禍
「よそもの」と言われながらも、少年はこの街を分かろうとし、
「ひろしま」を好きになっていく。
この年、広島カープは、念願のリーグ優勝を果たし。
少年たちも友情を深めていきます。
2016年の今年、25年ぶりのリーグ優勝を目前にしたカープ
当時の中学生は、中年になり、
いま、何を思っているのか、とても気になります。
2016年9月9日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.08.15
カンガルーの本棚 止めることはできなかったのか
NHK取材班の「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」
(外交・陸軍編)(新潮文庫)を、読みました。
世界から孤立し、戦争への道を進んだ日本。
歴史を後から振り返り、
止めることはできなかったのかという思いは、
誰しも一度はいだかれたことかと思います。
外交情報の共有のなさ、
組織防衛が第一優先の国家機関
排他的かつ刹那的な国民感情
などが、取材資料から明らかになります。
終戦の日に、お勧めの1冊です。
2016年8月15日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.08.03
カンガルーの本棚 積み続けること
エドワード・ムーニー・Jrの「石を積むひと」(小学館文庫)を読みました。
妻を亡くし、孤独に生きていく男の物語。
妻が残してくれた手紙を道しるべに、若者の再生に力を尽くします。
親子とはなにか、夫婦とはなにか
子育ての原点を考えさせられる作品です。
2016年8月3日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.07.10
カンガルーの本棚 戦争へと進む道
加藤陽子先生の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」
(新潮文庫)を、読みました。
東大教授の加藤先生が、私立中高校の生徒に、
日本の近代史を講義します。
日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争、
太平洋戦争
この国が経験してきた戦争への過程と、戦後とが
多くの資料とともに解き明かされます。
加藤先生はあとがきの中に、このように書き記されます。
「戦争となれば真っ先に犠牲となるはずの普通の人々が、
なぜ、自己と国家を過度に重ね合わせ、
戦争に熱狂してしまうのか」
500ページ近くの大作を、投票日までに読み上げようと、
数日間、殆どの時間をこの本と対峙することに使いました。
「過去を正確に描くことでより良き未来の創造に加担すると
いう、歴史家の本分にだけは忠実であろうと心がけました。」
加藤先生の力作が、多くの方に読まれることを望みます。
2016年7月10日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.07.03
カンガルーの本棚 家族のありかた
重松清さんの「ファミレス」(角川文庫)を、読みました。
3組の中年オヤジが直面する家族の問題。
結婚をして、子どもが生まれ、年収が増え、家も大きくなる
そんな右肩上がりの家族のありかたが、
子どもが独立することで、微妙に崩れていきます。
ファミレスは、ファミリーレストランなのか
それとも、ファミリーレスの略なのか
軽快な重松ぶしに乗りながら、家族のありかたを考えさせられます。
2016年7月3日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.06.28
カンガルーの本棚 助けること助けられること
梨木香歩さんの「雪と珊瑚と」(角川文庫)を、読みました。
生まれたばかりの雪を育てながら奮闘するシングルマザーの珊瑚
アルバイトしていたお店が閉店することを期に、
仕事疲れの人がホッとできる食べ物屋さんを開こうと考えます。
出会う人に助けられながら、どこかで助けられることを期待する自分に葛藤します。
助けられるとは、感謝が6割、屈辱感が2割、反感が2割と、著者は記します。
人を助けるとは、人に助けられるとは
善意の意味を考えさせられる小説です。
2016年6月28日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.06.22
カンガルーの本棚 言葉の影を
ほしおさなえさんの「活版印刷三日月堂」(ポプラ文庫)を、よみました
川越の街で、活版印刷を営む小さな店の物語。
息子のたびだちを、寂しく見つめる母親
叔父の喫茶店を引き継いで、自信が持てない青年。
親友の悩みを受け止めきれない高校生
活版印刷の懐かしい文字に、きぼうの灯を見つけます。
今が旬の心温まる短編集です。
2016年6月22日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.06.21
カンガルーの本棚 映画館に住んでいるという
原田マハさんの「キネマの神様」(文春文庫)を、読みました。
主人公は、シネコン建設に携わるキャリアウーマン
父の入院と時を同じくし、仕事をやめて映画雑誌社で働くことになります。
そこで起きる奇跡の数々。
映画館には「キネマの神様」が住んでいると言います。
描かれる懐かしい名画のシーンに、心が温かくなりました。
2016年6月21日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.06.12
カンガルーの本棚 日本の自然を愛して
朝井まかてさんの「先生のお庭番」(徳間文庫)を読みました。
舞台は、幕末期の長崎は出島
シーボルトのもとで働く庭師熊吉の物語。
日本の自然を愛する先生のお気持ちのもと、精進を重ねる熊吉
物語は、シーボルト事件に連座して、愛する人を失う悲しみに進みます。
終章にかかれる後日談にすくいを感じるのは、私だけでしょうか
紫陽花の名に込められた思いを、深く感じます。
2016年6月12日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.05.30
カンガルーの本棚 潮の声が聞こえる
葉室麟さんの「潮鳴り」(祥伝社文庫)を、読みました。
襤褸蔵とあだ名される主人公は、
何一失うものはなく、誰に頼られることもなく、
破れ小屋で、すさんだ暮らしを過ごしています。
弟の死をきっかけに、彼の心に、生きかえってみようという灯がともり始めます。
死ぬよりもつらいこと、汚名を浴びながらも生き続けることで、
愛する人を、守り抜く決意を固めます。
人の矜持とは何たるかを教えてくれる、お勧めの1冊です。
2016年5月30日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.05.29
カンガルーの本棚 みやびの奥に
朝井まかてさんの「恋歌」(講談社文庫)を、読みました。
幕末に活躍した歌人・中島歌子の物語。
商家のおきゃんな娘が恋い焦がれ、添い遂げた夫は尊王攘夷の志士
天狗党の乱に巻き込まれた歌子は、投獄され、
愛する人を、目の前で次々と失っていく・・
絶望の果てに歌子が再生を託したのが歌
死を前にして、歌子が願った事とは
第150回直木賞受賞の作品です。
2016年5月28日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.05.26
カンガルーの本棚 絶望の先に
原田マハさんの「翔ぶ少女」(ポプラ文庫)を、読みました。
神戸の震災で父と母を亡くした3兄弟。
最愛の妻を亡くした医師
仮設住宅で、寄り添いながら流れていく年月
そして、少女に起きたやさしい奇跡とは・・
板宿駅前の井戸書店、森店長一押しの1冊です。
2016年5月26日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.05.18
カンガルーの本棚 伝えたい言葉を
新堂冬樹さんの「引き出しの中のラブレター」(河出文庫)を、読みました。
ラジオパーソナリティをしている主人公は、
ラジオを通して届ける自分の言葉の力に悩みます。。
和解する事なく逝ってしまった父からの手紙。
読むことなく、しまわれたままの手紙
伝えたい言葉を、手紙によせて
やがて物語は、人の縁の不思議さに彩られていきます。
2016年5月18日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.03.17
カンガルーの本棚 いつまでも忘れない
重松清さんの「また次の春へ」(文春文庫)を、読みました。
突然の災禍により、大切な人を失った人の、その後を描きます。
貸してあげた本に はさんであったしおりh
母の面影を、五百羅漢さんに重ねた幼い日々
北の国に残した、母と父の秘密とは
7つのお話に込められた、鎮魂の思い。
3月13日を、いつまでも忘れません。
2016年3月17日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.03.11
カンガルーの本棚 希望のバトン
重松清さんの「娘に語るお父さんの歴史」(新潮文庫)を、読みました。
主人公は1963年生まれのお父さん。
自分が子どもだった頃を振り返って、日本という国の歩みを語ります。
未来が希望に輝いていた昭和の時代
娘の未来も幸せな未来でありますように、
いや きっと、幸せに違いないと、お父さんは信じるのです。
生きること、家族を作ることを考えさせられる1冊です。
2016年3月11日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.03.02
カンガルーの本棚 ときの不思議さ
辻村深月さん、万城目学さん、湊かなえさん、米澤穂信さん連作の
「時の罠」(文春文庫)を、読みました。
タイムカプセルに秘められた謎とき。
縁結びの神様のいたずら
4人の作者の遊び心満載の短編集です。
2016年3月2日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.02.28
カンガルーの本棚 新たな期待が
高田郁さんの「あきない世傳 金と銀」(ハルキ文庫)を、読みました。
質素倹約が奨励された享保年間の、大阪は天満が舞台の物語。
父と兄とを病気で失い、呉服商に奉公に出た主人公
第一巻目から、波乱万丈の幕開けです。
「みおつくし料理帖」作者の新シリーズに、期待が膨らみます。
2016年2月28日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.02.27
カンガルーの本棚 隠された歴史
増田実さんの「勇者たちへの伝言」(ハルキ文庫)を、読みました。
50歳を超えた主人公は、自分が小学生だった頃の世界に迷い込みます。
昭和40年代、西宮北口に、球場があったころ
お話は、阪急ブレーブスで活躍した選手たちへのオマージュから、
主人公の父の秘密へと広がります。
野球が嫌いだった父の秘密とは・・
作者が伝えたかった隠された歴史に戦慄を覚えます。
2016年2月27日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2016.02.18
カンガルーの本棚 こころの目
宮部みゆきさんの「桜ほうさら」(PHP文芸文庫)を、読みました。
時は江戸、父親を陥れた犯人を捜すサスペンス。
偽文書が現れるくだり
「目はものを見るだけだが、心は見たものを解釈する
人が生きるということは、目で見たものを心にとどめてゆくことの積み重ねであり、
心もそれによって育っていく」
この一文に納得です。
2016年2月18日
いたやどクリニック 木村彰宏