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2015.09.15
カンガルーの本棚 めぐりあえる幸せ
椰月美智子さんの「しずかな日々」(講談社文庫)を、読みました。
5年生になった男の子の、ひと夏のお話。
ホースでかける水の冷たさや、
お塩をふりかけてほおばるスイカの甘さ
最終ページに書かれた
「人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく」
この1行が、こころに残ります。
今年の100冊目も、大当たりの1冊になりました。
2015年9月15日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.09.09
カンガルーの本棚 生きづらさを抱えながら
穂高明さんの「かなりや」(ポプラ文庫)を、読みました。
虐待を受けていた女子高校生、パワハラで苦しむ青年
パニック障害で動けなくなる女性、
そして、忙しい日々の中に、こころをすり減らしていく医師
生きづらさを抱えた人を、
お寺の住職の家族が、やさしく支えていきます。
今年99冊目になる本は、いつまでも記憶に残りそうな1冊です。
2015年9月9日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.09.07
カンガルーの本棚 てこじいと一緒
湯本香樹実さんの「西日の町」(文春文庫)を、読みました。
10才の少年と母が暮らすアパートに、
「てこじい」が、転がり込んできます。
何も言わず、いつも壁に寄りかかり一日を過ごす「てこじい」
母の気がおかしくなりかけたとき、
「てこじい」は、バケツ一杯の赤貝を 海から採ってきます。
大人になった少年は、
その貝殻を見るたびに、西日さすアパートを思い出します。
祖父と、母と、少年との、大切な時間を思い出します。
2015年9月7日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.09.05
カンガルーの本棚 となりの他人
穂高明さんの「これからの誕生日」(双葉文庫)を、読みました。
バス事故で友だちを失い、ひとり生き残った千春を襲う罪悪感。
探そうとして見つけられない 生きていく意味
そんな千春の心を、まわりの人の目を通して描きます。
藤田香織さんが解説の中で書かれているように、
「相手の立場になって物事を考える」難しさを、
この小説は、それでも温かく伝えてくれます。
2015年9月5日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.09.02
カンガルーの本棚 向こうへの手紙
湯本香樹実さんの「ポプラの秋」(新潮文庫)を、読みました。
大きなポプラの樹に誘われて、母とふたりで暮らし始めたアパート。
小学生の千秋は、不思議なおばあさんに出合います。
おばあさんと交わした ふたりの秘密とは・・・
あたたかな、そして明日に踏み出す
静かな1歩へとつながる物語です。
2015年9月2日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.09.01
カンガルーの本棚 スタンド・バイ・ジー
湯本香樹実さんの「夏の庭」を、読みました。
いつも戸が閉まり、夏というのに一日こたつに座って過ごす
一人暮らしのおじいさん
ぼくは、友だちと3人で、おじいさんを見張ることにします。
やがて、3人とおじいさんの間に生まれる友情
夏が過ぎ、庭にコスモスが咲くころ、
少年たちは 大人へと歩き始めます。
日本児童文学者協会新人賞 受賞作品です。
2015年9月1日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.08.24
ンガルーの本棚 月明かりの下を
穂高明さんの「月のうた」を、読みました。
母を亡くした家族の再生の物語。
娘、継母、母の友人、そして夫と、
語り手を代えながら、それぞれの思いが描かれます。
4つに分かれた章のタイトルは、
「星月夜」「アフアの花祭り」「月の裏側で」「真昼の月」
おすすめの本が、ひとつ増えました。
2015年8月24日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.08.21
カンガルーの本棚 生と死の揺らめき
湯本香樹実さんの「岸辺の旅」(文春文庫)を、読みました。
3年前に失踪した 夫が帰ってくる。
夫に誘われるまま、見知らぬ旅をする日々。
旅を続ける中で、生と死の境界が揺らめいていく
ゆるやかな文体に引き込まれ、わたしも岸辺の旅人となります。
不思議な、ふしぎな、こころ休まる小説です。
2015年8月21日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.08.17
カンガルーの本棚 作り直し
羽田圭介さんの「スクラップ・アンド・ビルド」(文芸春秋九月特別号)
を、読みました。
30歳になろうとする無職の青年と、祖父との物語。
心と体を鍛えることにより再生していく青年と、
それが叶わない老人と・・
介護とは何か、年老いてなお望むものは何か
作り上げては壊していく
人生の哀しみが描かれます。
青年の、真直ぐではないが優しい気持ちに触れることができる1冊です。
2015年8月17日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.08.14
カンガルーの本棚 話題の一冊
又吉直樹さんの「火花」(文芸春秋九月特別号)を、読みました。
どうすれば世間に受け入れてもらえるのか
努力と結果の乖離の中で、もがき悩む若手芸人たち。
コンビを解散する最後のステージで、
逆説的な表現で心情を吐露する場面に心打たれました。
読み終えたあと、ほろ寂しさが残ります。
2015年8月14日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.08.13
カンガルーの本棚 降る雨はいつか上がり
葉室麟さんの「霖雨」(PHP文芸文庫)を、読みました。
江戸時代も末期、飢饉が続き、大塩平八郎の乱がおきるなど、
社会不安が高まる時代。
豊後日田で生きる兄弟の物語です。
「ひとを生かそうとする道でしか世の中は変えられぬと思うのだ」
降りしきる雨の中で伝える広瀬淡窓の言葉に、心打たれました。
今年91冊目となる1冊は、わたしの記憶の奥深くに残ります。
2015年8月13日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.08.09
カンガルーの本棚 重い1ページ
「絶歌」(太田出版)を、読みました。
小児科の田村先生にお借りしたのですが、10日経っても少しも読み進みません。
重い重い1ページ
4分の1ほど読み、あまりにも心がこもらない文章に自分なりに納得し、
もう読まないと宣言したものの、やはり気になり中盤から後半戦へ
母親との会話、2人の弟との交流の中で、少しずつ彼の混乱、弱さ、本心が現れてきます。
「人を殺すことは、なぜよくないのか」
彼は問い続け、自分なりの答えを見つけます。
この本を読みながら、さだまさしさんの「償い」を思い出しました。
亡くなられた お二人の方に、あらためて哀悼の意を表します。
彼が、自分のなした罪から逃げることなく、元少年Aからふつうの大人に変わられることを切に希望します。
2015年8月9日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.07.14
カンガルーの本棚 不断の努力で
出口汪先生の「やりなおし高校国語」(ちくま新書)を読みました。
以下、出口先生の「おわりに」からの引用です。
「一人一人のパソコンの中に世界中の膨大な情報が流れ込む。それらを整理し、活用するのは論理力と、その土台となる国語力なのだ。」
本書では、このような観点から、近代の名文を取り上げ解説を進めていかれます。
その一つに丸山眞男氏の「「である」ことと、「する」こと」を選ばれています。
以下、丸山先生の文からの引用です。
権利のうえに眠る者
「日本国憲法の第十二条を開いてみましょう。そこには、(この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない)と記されてあります。・・・この憲法の規定を若干読みかえてみますと、(国民はいまや主権者となった。しかし主権者であることに安住して、その権利の行使を怠っていると、ある朝目ざめてみると、もはや主権者でなくなっているといった事態が起こるぞ)という警告になっているわけなのです。」
国語の勉強をするつもりが、図らずも「戦争法案」に対峙する話に出合うことになりました。
豊かな国語力は、平和の上にこそ築かれていくものであることを教えられました。
2015年7月14日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.06.22
カンガルーの本棚 わたしを信じて
中脇初枝さんの「わたしをみつけて」(ポプラ文庫)を、読みました。
数日前に読んだ作品の感動が冷めないうちに、
書店へ直行しました。
主人公は、前作と同じ設定の街で働く看護士さん。
生後すぐに、産婦人科の門の前に捨てられ、
拾われたのが3月という理由で、つけられた名前は「弥生」
新しく配属されてきた看護士長との出会いで、
彼女は気づきます。
自分は、一人ではなかったことを・・
この本に出合えてよかったと思える1冊です。
2015年6月22日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.06.21
カンガルーの本棚 ひとすじの希望が
中脇初枝さんの「きみはいい子」(ポプラ文庫)を、読みました。
急速に開発が進む住宅街で、綴られる6つの物語。
学級崩壊
児童の虐待
生涯がある子どもを育てること
母親の介護
重いテーマに、読み進める手が、何度も止まります。
ラストの ひとすじの希望の光を信じて・・
文庫本の帯には、次のようなキャッチコピー
「誰かの子どもだった、すべての人に」
お読みいただきたい1冊です。
2015年6月21日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.06.17
カンガルーの本棚 給食をおかわりして
下野新聞社編「貧困の中の子ども:希望って何ですか」(ポプラ新書)を読みました。
地域を歩き、隠れている子どもの貧困を浮き彫りにしたルポです。
給食が唯一の食事
兄弟でお代わりをして、翌日の給食が待ち遠しくって
お休みの日は、すきっ腹をかかえて お布団の中
希望ってなんですか
本書は、その問いかけに次の言葉を掲げます。
「貧困の中にいる子に寄り添い続けることは難しい。
でも寄り添う心を持つことは、きっとできる。
今よりも子どものことを考える社会になるということ。
『希望って何ですか』
子どもから問われたら、そういう社会こそが「希望」なのだと
答えたい。」
子どもに関わるすべての大人たちに、読んでいただきたい1冊です。
2015年6月17日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.06.10
カンガルーの本棚 ふつうの幸せ
加藤元さんの「嫁の遺言」(講談社文庫)を、読みました。
不器用に生きる人々を描いた 7つの短い物語。
登場人物はみなお金がなく、きれいなマンションとは無縁で
家庭にも恵まれず
それでも、どうしようもない人生を、
愚痴ることなく、覚悟して生きている。
人としての矜持を教えてくれる1冊です。
2015年6月10日
いたやどクリニック 木村彰宏
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2015.03.22
カンガルーの本棚 母の名前を
加藤元さんの「泣きながら、呼んだ人」(小学館文庫)を
読みました。
4人の主人公とその母とが織りなす 4つの物語。
巻末の松本大介さんの解説が秀逸です。
「かって泣きながら呼んだ人からの自立。
母の思いと母への思いは断ち切られることなく、
次の世代へと続いてゆくのかも知れない」
子どもに何を与え、何を背負わせてしまうのか、
親子の出会いと、生きていく不思議さは、
語りつくすことはできません。
2015年3月22日
いたやどクリニック小児科 木村 彰宏
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2015.03.08
カンガルーの本棚 永遠に在り
高田郁さんの「あい 永遠に在り」(ハルキ文庫)を読みました。
江戸時代末期、農村から身を起こし、
医師となって人々を助け、
そして北海道の開拓を夢見、
土に帰っていく関寛斎夫婦の物語。
一本の山桃の樹にこめられた愛の物語。
「人たる者の本分は、眼前にあらずして、永遠に在り」
本書の中で繰り返し描かれる言葉が、心に残ります。
2015年3月8日
いたやどクリニック小児科 木村 彰宏
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2015.03.05
カンガルーの本棚 取り戻す過去
後藤健二さんの「ダイヤモンドより平和がほしい」(汐文社)を
読みました。
アフリカ大陸西海岸に位置する、シエラレオネ。
世界一美しいダイヤモンドの産地と、世界一平均寿命が短い国。
ムリア少年は、両親を殺され麻薬を打たれ、少年兵士にされます。
武装集団から逃げ出した少年は、保護施設に入り学びをはじめます
ぼくはここにいる。
どうか愛して欲しい。
どうか受け入れてほしい
少年の慟哭が聞こえます。
少年をみつめる後藤さんのあたたかな眼差しを感じます。
第53回産経児童出版文化賞受賞作です。
2015年3月5日
いたやどクリニック小児科 木村 彰宏