カンガルーの小部屋

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  • 2010.03.08

    カンガルーの本棚 アメリカ・アメリカ

    堤未果さんの「ルポ貧困大国アメリカⅡ」(岩波新書)を読みました。

    非常に大きな反響をよんだパートⅠの続編ですが、今回のルポもマスメディアではあまり語られることのないアメリカの影の部分をていねいに取り出して描かれています。

    ルポ記は、次の4点にそって進められていきます。

    ①教育ローンの課題

    ②高齢者年金の問題

    ③医療改革の課題

    ④刑務所労働市場の実状

    教育ローンの課題をみますと、アメリカという国では、4年制大学に進まなければ、一生低賃金の不安定労働にあまんじなければならないという不安があります。そのために民間の学資ローン会社から多額の借り入れをしてでも大学をめざします。しかし、大学を卒業しても、正規雇用の道は限られており、多額のローンの返済に追われ、若者は社会からドロップアウトしていきます。貧困の世代間連鎖の構図が、ここに見て取れます。

    実力さえあれば社会でのし上がっていくことが可能であった、かってのアメリカンドリームは、絵空事になってしまったと堤さんは述べられています。

    アメリカの医療の現状については、パートⅠでも取り上げられた課題です。

    チェンジを合い言葉に登場したオバマ大統領は、国民皆保険の設立を大きな政策論点のひとつとして掲げました。

    しかし、まだ政権交代から1年という短い期間ですので、即断はできませんが、国民皆保険へは平坦な道のりではないように思えます。

    たまたま3月7日付け読売新聞朝刊の一面、「地球を読む」で竹森俊平氏の「米医療改革案」を読む機会がありました。

    先日行われたマサチューセッツ州の上院議員選挙で、医療制度改革に反対してきた共和党の候補が当選したとのこと。

    国民の医療に対する考え方、伝統という面からの切り込みですが、堤さんのルポでも取り上げられた家族の病気をきっかけにした中間層の没落、不安の構造を、竹森さんは短い論文の中に、端的にまとめられています。

    堤さんや竹森さんが描かれているアメリカの現状は、明日の日本の姿を見るようで、重苦しい気持ちにさせられます。

    しかし、堤さんの本は、次のような希望の言葉で締めくくられています。

    「民主主義はしくみではなく、ひとなのだ」と。

    アメリカの現状からなにを学び、どのように行動するのか、そしてわたし達の子どもに、どのような国のあり方を伝え残していくのかについて、深く考えさせられる一冊です。

                            2010年3月8日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏 

  • 2010.03.01

    カンガルーの本棚 日本語の不思議さ

    海野凪子さんの「日本人の知らない日本語2」を読みました。

    殆どがマンガで構成されていますので、読むと言うよりは、見ると言う方が正確かも知れません。

    外国の方に日本語を教える、日本語学校の先生が出会った数々のエピソードが紹介されています。

    言葉の誤解、文化の違いから生じる、抱腹ものの出来事。

    その中にも、日本語の成り立ちや、日本の文化がやさしく説明されています。

    濁点や半濁点の成立のなぞ。らぬき言葉の必然性などのうんちくが、おもしろおかしく語られています。

    肩が凝らない、それでいてなかなか味のある一品です。

                           2010年3月1日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.02.28

    カンガルーの本棚 日本がもし

    池上彰さんの「日本がもし100人の村だったら」(マガジンハウス)を読みました。

    読みましたと言うよりも、眺めましたというべきかもしれません。

    見開きの左半分は、大きな文字と数字。

    そして、右半分は写真とイラスト。

    以前「世界がもし100人の村だったら」という本を読みましたが、この本はその姉妹編。

    数字に表されたいろいろな事実。

    そして数字にかくされたいろいろな喜びと悲しみ。

    この国の形が、小さな本の中から浮かび上がってきます。

    たのしい本ではありません。でも、とても大切な一冊です。

                           2010年2月28日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.02.27

    カンガルーの本棚 食堂かたつむり

    小川糸さんの小説「食堂かたつむり」を読みました。

    美しい描写に満腹です。

    翡翠色の実、玉ねぎの薄皮みたいに半透明の雲、地球をそのまま巨大なはちみつのビンに沈めたみたいな夕焼け空、フラミンゴのようなピンク色の空、コーヒーゼリーのようにつるんとした真っ黒な目。

    その鮮やかないろ使いの美しさは、ページをめくるごとに、わたしを楽しませてくれます。

    ありふれた食材のひとつ一つを、いとおしむように文字に置き換えられた豊かな表現は、わたしのこころを瑞々しくしてくれます。

    読みすすむごとに、やすらぎを与えてくれる小説です。

                         2010年2月27日

                         いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.02.21

    カンガルーの本棚 ワーキングプア

    文庫本で売り出されたのを機会に、ポプラ文庫の「ワーキングプア」を読みました。

    2006年7月と12月にNHKで放送された番組を出版化したものです。

    放送時に感じたおどろきは、今もこころの中にしっかりとしまわれています。

    ホームレス化する若者、地方経済の疲弊、貧困の嵐に翻弄される子ども。

    読み進むうちに、悲しみと、怒りと、無力感がわたしを襲います。

    あとがきの中で、中嶋太一氏はある女性ディレクターのメールを紹介されています。

    「番組のラストコメントの打ち合わせの時、私はこう話しました。『誰もがいつまでも、若く、健康で、自分の力だけで生きられるというのは幻想です。しかし、国や企業はそうした幻想で、パーフェクトな個人主義の人間だけで社会を構成しようとしているかに見えます』と。これは私の家族の絶望からの実感でした。わが家を振り返ってみて、誤解を恐れずに言えば、人にはどうしようもない運命、というものはあるのだと思います。でも、その人自身の運命を大きく変えるのは無理だったとしても、その運命を支えている社会は、すこしでも何かできるかもしれない。『あなたは必要な命だ』と言ってあげられるかもしれないと思います。」

    放送されてから、3年が過ぎました。この間に政権交代という大きな流れが起きました。

    しかし、3年が過ぎ、テレビや文庫本の中で紹介された方々は、いまどのような暮らしをされているのでしょう。なにが変わったのでしょう。

    医療生協・民医連で働く医師のひとりとして、こころを熱くさせてくれる一冊でした。

                           2010年2月21日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.02.16

    カンガルーの本棚 そうだったのか!発達障害

    生協さん(コープこうべ)の宅配便で、本が届きました。

    とき・のりさ(斗希典裟)さんの「そうだったのか!発達障害」という本です。

    本を購入するときは、書店でしばらく立ち読みをし、気に入った本を購入することが多いのですが、今回はカタログの題名にひかれて申し込みました。

    ときさんの本は、発達障碍という重い話を、4こまマンガを使いながら、楽しく説明されていきます。

    子どもや自分自身、また友だちの子どもが実際に体験した不適応行動の実例をあげられながら、違いを知ることを否定や排除に用いるのではなく、違いを知ることを援助の手がかりとして役立てる気持ちで紹介されています。

    お子さんの毎日の行動に大変さを感じられているおかあさんや、子どもとつながりを持とうと思われている多くの方の、楽しめる入門書と思います。

                      2010年2月16日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.02.08

    カンガルーの本棚 万寿子さんの庭

    小説を読みました。書店で一番目立つ棚にならべられている文庫本ですので、みなさんも目にされたことがあるかもしれません。

    黒野伸一さんの「万寿子さんの庭」という本です。

    本を紹介する帯には、「二十歳と78才の女性の友情」という意味のことを書かれているのがわたしの興味を引きました。

    軽やかなテンポの文体と、ユーモアあふれるふたりの出会いとともだちどうしの深まり。そして、話は悲しい結末に向かいます。

    ひとりの人間が年老いていくこと。おじいちゃんでもなく、おばあちゃんでもなく、ひとりの固有名詞をもった人間が年老いていくこと。その切なさと、最後の瞬間まで人間としての尊厳を保とうとする願いがこころにしみてきました。

    わたしは小児科医です。子どもとの関わりで毎日を過ごしています。

    クリニックにはショートステイもあり、デイケアも併設しています。熱心な内科の先生が24時間の在宅見守りもされています。

    日頃から、高齢者の生活や健康について、いろいろとお話しをお聞きするのですが、やはり自分の中では小児科医という持ち場に対する割り切りがあるのでしょう。

    この小説は、言い訳ばかりのわたしのこころの奥深くの、何かを揺さぶります。

    作家が男性であるということにも驚きを感じました。

    女性同士の友情を、これほどまでにていねいに描くことができるものなのかと感嘆しました。

    一人暮らしをしている父に、次のお休みには会いに行こうと、そう思いました。

                           2010年2月8日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.02.01

    カンガルーの本棚④ 気持ちを伝える

    自分の気持ちを伝えるための2冊の本を読みました。

    平木典子さんの「子どものための自分の気持ちが<言える>技術」と「自分の気持ちをきちんと<伝える>技術」という2冊です。

    自分の気持ちをまわりの方にうまく伝えることは難しいものです。

    先日も何気なくテレビのチャンネルをかえますと、「黙っていても分かり合える関係・・」という言葉が飛び込んできました。一見深くて、実はお互いの理解が進まない日本社会の一面を見る思いがしました。

    適切な自己表現とはどういうものなのか、またいろいろな場面で子どもが持つ感情を受けとめて、子どもの立場でどのようにその感情を表現すればよいのかをコーチするなど、示唆に富む内容です。

    お子さんをお持ちの方は、「子どものための自分の気持ちが<言える>技術」を読まれるとよいかと思います。

    素敵な親子関係を築くことができる、きっかけになるかもしれませんよ。

                           2010年2月1日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.01.24

    カンガルーの本棚③ 「ほめ言葉」ブック

    平木典子さんの「ほめ言葉」ブックを読みました。大和出版からの発行です。

    「子どもはしかって育てるより、ほめて育てましょう」とよく言われますけれども、実際に子どもをほめることは簡単ではありません。

    うまくいった時や、人より優れた時には、素直にほめることができるのですが、そうでない時にもほめるとなると、なかなか難しいものです。

    平木さんの本では、いろいろな場面でのほめ言葉を、かわいいイラストとともに、分かりやすく説明されています。

    1.好きは好きと言ってみよう

    2.「気づきました」のサインを出そう

    3.ありのままのその人を受け入れよう

    4.感謝の気持ちをいろいろな言葉に託そう

    5.相手の<魅力>や<すごさ>を知らせてあげよう

    6.こんなとき、こう励まそう

    7.こんなとき、こうねぎらってあげよう

    まわりの方の良いところに気づき、その方とよい関係を結ぶための言葉がぎっしりとつまっています。

    子どもだけではなく、家族やご近所、職場の人との関係にお悩みの方、ご一読されることをお勧めいたします。

                           2010年1月24日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.01.21

    カンガルーの本棚② 大人のAD/HD

    AD/HDという言葉をご存知ですか。

    AD/HDは注意欠陥・多動障碍の略です。

    多動性・衝動性・不注意を特徴とする脳の特性です。

    これまではどちらかといえば子どものAD/HDが注目されてきましたが、最近になりようやく成人に達したAD/HD、即ち大人のAD/HDが注目されるようになってきました。

    田中康雄先生著、講談社発行の「大人のAD/HD」は入門書として最適の書と思います。

    AD/HDの方が持つ積極性や柔軟性などのハンター(漁師)的要素を大切にしながら、気の長さや計画性などのファーマー(農民)的要素の弱さをいかにカバーしていくかなど、教えられることが多く書かれています。

    何となく生きづらさを感じられている方に、ご一読されることをお勧めいたします。

                           2010年1月21日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.01.15

    カンガルーの本棚① 雨にぬれても

    福祉関係の理事会に出かける電車の中で、1冊の本を読みました。

    上原隆さんの「雨にぬれても」です。上原さんの著書を読むのは3冊目になります。

    上原さんは、どこにでもいるごく普通の人の生活を、ていねいに描かれています。

    あとがきの中で上原さんは次のような夢を語られています。

    「私は本書に書いたような文章を新聞紙面に載せたいと思っている。アメリカのコラムニストのような仕事がしたいのだ。新聞の隅っこに載っていて、朝食を食べながら読んだ人がふとコーヒーカップを宙で止めるような文章。そしてその文章が心に残り、その日一日人に対してやさしい気持ちになれるようなもの。・・・」

    「日常の細部に幸せを感じるようなていねいな生き方をしなきゃ。」

    忙しい忙しいと言い訳しながら、何も見ず、何も感じない毎日を過ごしてはいないかと反省しました。

                           2010年1月14日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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