カンガルーの小部屋

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  • 2023.10.24

    カンガルーの本棚 つましいながらも

    西條奈加さんの「曲亭の家」(ハルキ文庫)を読みました。

    南総里見八犬伝の作者、滝沢馬琴の息子のもとに嫁いだ路

    物語は、路を主人公にして、その数奇な一生を描いています。

    頑迷な馬琴と、かんしゃく持ちの夫と姑

    ひと時の気が休まることなく、笑い声も聞かれない家で

    愛する人を失い、そして、光を失った馬琴のかわりに、

    口述で八犬伝を完成させていく路

    晩年に訪れた想いとは

    ひとりの女性の持つ強さと幸せに、心打たれる作品です。

    2023年10月24日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.10.18

    カンガルーの本棚 あたりまえを盾に

    西條奈加さんの「心淋しい川」(集英社文庫)を読みました。

    江戸の下町を流れる小さな川

    川といっても流れはなく、いつもよどみ、悪臭を漂わせている

    そのまわりに、ひっそりと建つ、崩れかけた家々

    初めて心を許した職人と別れなければいけない「ちほ」

    母の帰りを子どもが歌ううたに、昔捨てた女との再会を願う「与吾」

    世間から忘れられ、それでも歯を食いしばって生きていく5つの物語

    物語が流れていく先には、思いもかけない秘密が隠されていした。

    2020年度 第164回直木賞を受賞した作品です。

    2023年10月18日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.10.12

    カンガルーの本棚 金沢ってどんな味かな

    坂木司さんの「アンと愛情」(光文社文庫)を読みました。

    デパ地下の和菓子屋さんでバイト店員として働くアンちゃんのシリーズ最新作

    今回も、同僚の手作り生和菓子の謎解きに悩んだり

    金沢に旅行したりの大忙し。

    生和菓子の名前や描写にはうなづきながらも、

    もう一つイメージできない自分がいます。

    生和菓子の絵本を開きながら、読むともっと楽しめるのでしょうね。

    2023年10月12日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.10.11

    カンガルーの本棚 素敵なシニアに

    小林武彦先生の「なぜヒトだけが老いるのか」(講談社現代新書)を読みました。

    多くの動物が、生殖年齢を過ぎると死に向かう自然界の中で、

    ヒトやシャチ、ゴンドウクジラなどのごく少数の生き物だけが老後期間を持つといいます。

    ヒトでは、人生の40%が老後期間にあたります。

    なぜヒトでは老後が可能となったのか

    ヒト集団の中に、老後個体が存在する積極的な意味はなになのかなどを

    生物学者の小林先生が解説されます。

    素敵なシニアに進化し続ける方向を、小林先生は指し示してくださいます。

    2023年10月11日

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  • 2023.10.08

    カンガルーの本棚 頼ってほしいと

    高橋淳さんの「ブラック支援・狙われるひきこもり」(角川新書)を読みました。

    引きこもり支援と称して拉致され、いのちを失った一人の男性

    新聞記者でもある高橋さんは、ひきこもり支援と称する団体の活動の影で

    何が行われていたのか、

    そして、引きこもりを続けていた男性が何を考え、

    どのように生きようとしていたのかを追い求めます。

    豊中市の勝部麗子さんからお聞きした言葉が、

    いつまでも心に残ります。

    「厳しい状況の人を見捨てる社会は、いち自分も見捨てられるか分からない社会。

    今日のその人が、明日の私かも知れない。だから、頼ってほしい」と

    2023年10月8日

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  • 2023.10.06

    カンガルーの本棚 甘味にひかれて

    坂本司さんの「和菓子のアン」(光文社文庫)を読みました。

    主人公の梅本杏子さんは、高校を卒業してもやってみたいことが見つからず

    たまたま応募したデパ地下の和菓子屋さんで、バイトを始めます。

    中身はおっさんの女性店長や、まったく乙女の男子先輩、

    しとやかな元ヤンの同僚に囲まれながら、

    次第に和菓子の世界に引き込まれていきます。

    お店を訪れるお客さんの、何気ない言葉やしぐさから、

    謎ときがはじまります。

    ミステリーと滑稽さと成長物語と、

    ミックス定食のような満腹感を味わえる1冊です。

    2023年10月6日

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  • 2023.10.03

    カンガルーの本棚 知らなかったとはいえ

    宮沢孝幸先生の「ウイルス学者の絶望」(宝島社新書)を読みました。

    宮沢先生は、獣医学の中でもウイルス学を専門に研究されている先生です。

    コロナウイルスの細胞感染様式や、

    mRNAワクチンの限界など、

    ウイルスと免疫の基礎からわかりやすく解説され、

    今まで学習してきたこと知識にあてはまらない

    多くの新しい知見を提供していただきました。

    新型コロナウイルス感染症は、いろいろな角度から、知識を広げたいと思います。

    2023年10月3日

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  • 2023.10.01

    カンガルーの本棚 表からでは

    町田そのこさんの「うつくしが丘の不幸の家」(創元文芸文庫)を読みました。

    新しく開けた街に立つ「不幸の家」と呼ばれる一軒家。

    物語は、その呼び名を知らずに引っ越してきた理容師の一家から始まります。

    何故この家が「不幸の家」と呼ばれているのか。

    時はさかのぼり、恋人を妊娠させてしまった高校生とその母

    幼い娘を抱えたシングルマザーとその友人の不仲と和解

    不妊治療に悩む夫婦

    そして、誰からも愛されないとい持っている女性

    この家に住むと、誰もが不幸になってしまう。

    しかし、この家を去るときに、どの家族も笑顔で前を向いて出ていくことを

    誰も知らないのです。

    町田さんは、悩み絶望し、それでも歩き始める家族をやさしく見つめます。

    カンガルーのお勧めの本が、また1冊増えました。

    2023年10月1日

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  • 2023.09.23

    カンガルーの本棚 おとなの恋の物語

    町田そのこさんの「コンビニ兄弟3」(新潮文庫)を、読みました。

    シリーズ3作目も、妖艶な店長が人々を引き付ける門司港のコンビニが舞台です。

    3つの物語の最後に登場するのは、

    バッチリ決まった女性に振り回されるコンビニ店員のとまどいと、

    隠された真実。

    軽妙な語り口のうちに、外見からはうかがうことができない

    それぞれの生い立ちと、悲しみが浮かび上がります。

    第4作はいつ頃かなと、また首が長くなってしまいました。

    2023年9月23日

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  • 2023.09.20

    カンガルーの本棚 本を読んだだけでは難しい

    安藤俊介さんの「アンガーマネジメントを始めよう」(だいわ文庫)を読みました。

    自分やまわり人、世間に「怒りの感情」を持つことは、自然なことです。

    しかし、その「怒りの感情」が人を傷つけ、

    まわりまわって、自分の立場を損なうことは、まれではありません。

    安藤先生は、怒りのマネジメントを

    人間関係、仕事、自分の生き方、暮らし方などにわけ、

    そのコントロール方法を伝授されます。

    なるほどと、納得がいく方法と、

    それはあんまりだわと思うところが混在し、

    整理がつかないままに、最後の1ページに目を通しました。

    本を読んだだけでは難しい。

    では、どうすればよいんだろう。

    2023年9月20日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.09.11

    カンガルーの本棚 寒村からフランスへ

    三國清三さんの「三流シェフ」(幻冬舎)を読みました。

    北海道の寒村に生まれた三國さんは、体一つで札幌の一流ホテルの厨房に飛び込み

    料理の道を歩み始めます。

    その道は、東京帝国ホテル、ジュネーブ大使館へと続き

    やがてフランス各地の超一流レストランでの修業が待っていました。

    がむしゃらに料理と格闘していた先に、

    待っていた言葉はシェフからの「洗練されていない」のひとこと

    講演会を主催していただいた小学校の養護の先生からいただいた、

    三國シェフの壮絶な自叙伝です。

    2023年9月11日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.09.07

    カンガルーの本棚 4つの恋の物語

    高田郁さんの「あきない世傳 金と銀 契り橋」(ハルキ文庫)を読みました。

    12作続いたシリーズの最新作。

    主人公と出会い、かかかり、助け合う、

    4人の登場人物に焦点を合わせたスピンオフ作品集です。

    どの小編もあたたかく、じれったさを感じながらも、

    登場人物に 幸せになったほしいと願う私がいます。

    続編がいつ出るのかと、いまから心待ちの作品です。

    2023年9月7日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.09.02

    カンガルーの本棚 どうすればいいんだろう

    末木新先生の「死にたいと言われたら」(ちくまプリマー新書)を読みました。

    本の帯に書かれた「かぎりなく冷たく、根底のところで温かい」言葉にひかれ、

    本書を手に取りました。

    中高生向けに書かれていますが、その内容は深く、多くのことを考えさせられます。

    自殺に至る3つの危険要因

    自殺企図歴などの潜在能力

    所属感の減弱

    負担感の知覚

    そのひとつ一つに焦点をあてられ、解説されていきます。

    重いテーマのむこうに、わたしたちができること、

    社会がなすべきことが見えてくるようです。

    心が元気なうちにこそ、手に取ってほしい1冊です。

    2023年9月2日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.08.30

    カンガルーの本棚 最高の一冊

    林朗子先生編の「心の病の脳科学」(講談社ブルーバックス)を読みました。

    統合失調症や、うつ病、ASD、ADHD、PTSDなど、

    現代人を悩ましている心の病。

    その人の頭の中で何が起きているのか、

    従来の心理学的アプローチだけでなく、最新の実験的手法により

    その現象を明らかにしようと試みる16人の脳科学者の解説集です。

    脳内の炎症で、正常な神経回路が形成されなくなる

    体の炎症がまた、脳内の炎症と深くかかわっている

    アレルギー性炎症を専門にしているカンガルーにとって、

    脳を含めた体全体の炎症を考えさせられる、示唆に富んだ1冊です。

    ここ数年のうちで、一番ワクワクドキドキさせられた1冊になりました。

    2023年8月30日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2023.08.28

    カンガルーの本棚 いってみたいな

    町田そのこさんの「コンビニ兄弟」(新潮文庫)を、よみました。

    北九州の門司港にある、コンビニ

    店長の「ミツ」が醸し出す、怪しげなフェロモン

    花の蜜のにおいに吸い寄せられるミツバチの群れように

    そこはいつも黄色い歓声に包まれています。

    そこで繰り広げられる4つのお話し

    どのお話しも、奥が深くほろりとさせられます。

    大好きな1冊になりました。

    2023年8月28日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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  • 2023.08.24

    カンガルーの本棚 2度目に訪れて

    町田そのこさんの「コンビニ兄弟2」(新潮文庫)を、よみました。

    北九州の門司港にある、コンビニは、

    今日も黄色い歓声に包まれています。

    今回は3つのお話し

    祖母と恋バナをする高校生

    容姿にも性格にも自信を持てない大学生

    そして、女王様の地位から引きずり落ちた女子高生を救ってくれたものは

    シリーズ化され、次の1冊が読める日を、心待ちにしています。

    2023年8月24日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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  • 2023.08.18

    カンガルーの本棚 イクラのような

    町田そのこさんの「ぎょらん」を読みました。

    死者がこの世に残すと言われる「ぎょらん」

    不倫相手や、母、祖母の死

    「ぎょらん」は、無念を抱きながら去り行く者の情念か

    それとも、残された人が死者へ馳せる思いの塊なのか

    語りつながれていく6つの物語が終わるころ、

    その答えが少しだけ明らかになります。

    人と人とのつながりの深さが、まっすぐに伝わってくる作品です。

    2023年8月18日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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  • 2023.08.14

    カンガルーの本棚 天使じゃなくってもいい

    寺地はるなさんの「彼女が天使でなくなる日」(ハルキ文庫)を読みました。

    両親を亡くした主人公は、小さなしまで「もらいご」として育てられます。

    民宿兼託児所を営む彼女のもとには、

    訳ありのひとが泊りに訪れます。

    育児と仕事に疲れ果てたキャリアウーマン

    母の意にそむけない娘

    高校生のうちの子どもを産んだ妹

    他人が考える常識、小さな島をかけめぐる噂話

    そこで肩を張らずに生きていく主人公に、

    わたしたちも、前を向いて歩いていくことを教えられます。

    美しい文体とともに、人生とは何かを教えてくれる小説です。

    2023年8月14日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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  • 2023.08.10

    カンガルーの本棚 やっと気がついた

    寺地はるなさんの「わたしの良い子」を読みました

    妹の子ども朔は、「良い子」からはかけ離れた存在

    人と交わらず、あつかいにくく、そんな朔と暮らし始めることになった椿

    椿自身も世間の「幸せ」や「良い子」を受け入れることができないでいます。

    妹との確執の末に、見つけた「良い子」とは。

    平均的な生き方を拒否し続ける女性たちを描いた作品です。

    2023年8月10日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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  • 2023.08.04

    カンガルーの本棚 泣いてもいいよ

    寺地はるなさんの「大人は泣かないと思っていた」(集英社文庫)を読みました。

    九州の山奥の町に住む人々の物語。

    男は男らしく、女は女らしくという因習に縛られて生きる息苦しさ

    「大人は泣かないと思っていた」

    「小柳さんと小柳さん」

    「翼が無いなら跳ぶまでだ」

    「あの子は花を摘まない」

    「妥当じゃない」

    「おれは外套を脱げない」

    「君のために生まれてきたわけじゃない」

    7つの短いお話のタイトルが、温かく流れる涙の意味を知っています。

    もうすっかり、寺地さんにはまってしまいました。

    2023年8月4日

    いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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