カンガルーの小部屋

2010.10.17

かんがるう目線 無言館

講演の帰路、無理を言って、上田市の「無言館」に連れて行っていただきました。

戦没画学生慰霊美術館。

展示の内容は、奥正面に掲げられている、窪島誠一郎氏の言葉が、その全てを語っています。

「あなたを知らない」

遠い見知らぬ異国(くに)で死んだ 画学生よ

私はあなたを知らない

知っているのは あなたが遺したたった一枚の絵だ

あなたの絵は 朱い血の色にそまっているが

それは人の身体を流れる血ではなく

あなたが別れた祖国の あのふるさとの夕灼け色

あなたの胸をそめている 父や母の愛の色だ

どうか恨まないでほしい

どうか咽かないでほしい

愚かな私たちが あなたがあれほど私たちに告げたかった言葉に

今ようやく 五十年も経ってたどりついたことを

どうか許してほしい

五十年を生きた私たちのだれもが

これまで一度として

あなたの絵のせつない叫びに耳を傾けなかったことを

遠い見知らぬ異国(くに)で死んだ 画学生よ

私はあなたを知らない

知っているのは あなたが遺したたった一枚の絵だ

その絵に刻まれた かけがえのないあなたの生命の時間だけだ

 

                       2010年10月17日

                       いたやどクリニック小児科 木村彰宏