カンガルーの小部屋

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  • 2010.07.29

    カンガルーの本棚 見えざる手

    池上彰さんの「見えざる手が経済を動かす」(ちくまプリマー新書)を読みました。

    池上さんらしい、分かりやすい表現で、経済学を語られています。

    「経済学とは、資源の最適配分を考える学問です。

    会社は、「ステークホルダー」(利害関係者)のものです。つまり、株主、経営者、従業員、そして、社会のものです。

    市場の失敗によって、貧富の差が拡大すると社会が不安定になります。これをカバーするのが政府の役割です。

    市場経済を万能視しないこと。市場経済を敵視しないこと。すべてを事故責任にしてしまわない。すべてを「お上頼み」にしない。」

    経済学は難しいと思っていましたが、毎日の買い物や、医療生協や職場のこと、身近ないろいろなことが、別の目で見えてくるから不思議です。

    暑い毎日ですが、肩を張らずに挑戦できる経済学の入門書です。

                           2010年7月29日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.07.21

    カンガルーの本棚 ローマのリーダー

    塩野七生さんの「日本人へ リーダー編」(文春新書)を読みました。

    文藝春秋誌に、2003年から3年間にわたり連載されたエッセイを集めた本です。

    リーダーといっても、当時はコイズミ劇場の時代です。

    塩野さんのリーダー論も、コイズミさんを中心に展開されています。

    コイズミさんの業績が、100年後にどのように評価されるのかは分かりませんが、少なくとも2010年の時点では、普通の生活をしている人の中に格差を持ち込んだ人であり、古き良き日本の温かさをこわした人だと、わたしは評価しています。

    リーダー論では、塩野さんの視点には、同意できない点を多々感じました。

    一方失業問題に言及しての文章では、大いに共感できるものがありました。

    塩野さんは、イギリスの作家ケン・フォーレット氏の言葉を紹介されています。

    「人は誰でも、自分自身への誇りを、自分に課せられた仕事を果たしていくことで確実にしていく。だから、職を奪うということは、その人から、自尊心を育む可能性さえも奪うことになるのです。」と。

    食べる手段としてだけではなく、その人がその人らしく生きていくためにこそ、職は必要だという観点は、なんと健全な考え方なのでしょう。

    一冊の中に、キラリと光る1ページを見つけました。

                           2010年7月21日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.07.13

    カンガルーの本棚 食べて治す食物アレルギー

    栗原和幸先生の「食べて治す食物アレルギー:特異的経口耐性誘導」(診断と治療社)を読みました。

    先の日本アレルギー学会で購入したのですが、つんどく状態が続き、読了が遅れました。

    除去一辺倒だった食物アレルギーの治療の世界に、「食べて治す」という考え方が拡がってきました。

    栗原先生の著書は、その流れを2010年の時点で整理された労作です。

    わたしが17年来行ってきた「食べて治す」方法は、緩徐特異的経口耐性誘導法(slow SOTI)

    に位置づけられると紹介されています。

    一方、数年来脚光を浴びている入院をさせて食べさせる方法は、急速特異的経口耐性誘導法(rush SOTI)と、名付けられています。

    いずれの方法も危険性は伴いますが、待つだけの食物アレルギーの治療法から、大きな一歩を踏み出したと思います。

    ただ、緩徐特異的経口耐性誘導法(slow SOTI)は、栗原先生も、「もともと食べられた患者ではないかという疑問に明快に答えることができず、正式な報告ができなかった」と書かれているように、学会発表の精度に達しにくい方法です。

    しかし、食物アレルギーの子どもさんには朗報であることは間違いありませんので、今後とも経験を積み、研究を深めていきたいと思います。

                           2010年7月13日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.07.11

    カンガルーの本棚 たいせつなこと

    重松清さんの「青い鳥」(新潮文庫)を読みました。

    引き込まれるように、1日半で読みました。

    しゃべろうとすると言葉がつっかかってしまう、ムラウチ先生の物語です。

    知子、義男、杏子・・。

    いろいろな形のひとりぼっちに、ムラウチ先生は語りかけます。

    「たいせつなこと」「そばにいること」「ひとりぼっちじゃないこと」

    ムラウチ先生の言葉は続きます。

    「ほんとうにしゃべりたいことは、しゃべらなくてはいけない。

    答えがほんとうに欲しいときには、やっぱり、訊かなくてはいけない」

    ムラウチ先生が、生徒に伝えようとする言葉が胸に響きます。

    わたしにとって「たいせつなこと」って、なにですか。

    みなさんにとって「たいせつなこと」って、なにですか。

    子ども達を支える仕事に就かれている方に、必読の1冊です。

                           2010年7月11日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏 

  • 2010.06.26

    カンガルーの本棚 優しさは・・ 

    道上哲也医師の「ボクにしか書けないケイコの物語」(かもがわ出版)を読みました。

    道上医師と、パートナー「ケイコさん」の闘病記です。

    道上医師は、わたしの前任のクリニック院長をされていました。

    内科と小児科と言う専攻の違いのせいか、親しくお話しをさせていただいた記憶はありません。

    そんな近くて、少しだけ遠い存在の医師の物語を、淡々と読みはじめました。

    とまどい、怒り、悲しみ、寂しさ。

    そのひとつ一つのありのままを、感情を抑えられた文体で、ていねいに綴られています。

    「優しさは、悲しみや寂しさがじょうずに育っていったもの」

    あとがきの中で、重松清さんのこの言葉を引用されています。

    「いいご本を書かれましたね」

    今度、道上医師にお会いした時に、こう声をおかけしようと思います。

    でも、道上医師と同じ医療生協で働いていることの誇りを、どのように伝えすればよいのか、まだ言葉を探せずにいます。

                           2010年6月26日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.06.17

    カンガルーの本棚 モノレールねこ

    加納朋子さんの「モノレールねこ」(文春文庫)を読みました。

    書名のおもしろさに惹かれた一冊です。

    吉田信子さんは書評に「読み手の心をそっと包み込むように、加納さんが広げてくれたふわふわの温かな毛布である」と書かれています。

    8つの短い小説の中では、わたしは「セイムタイム・ネクストイヤー」が一押しです。

    みなさんは、どの短編がお気に入りですか。

                           2010年6月17日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏 

  • 2010.06.09

    カンガルーの本棚 メリーゴーランド

    重松清さんの「カシオペアの丘で」(講談社文庫)を読みました。

    文庫本にして上下2巻、800ページを越える大作です。

    シュンと、トシと、ユウと、ミッチョ。

    4人の少年少女が丘を登るシーンから物語ははじまります。

    この物語には、いくつかのキーワードが散りばめられています。

    カシオペヤ、ボイジャー、観音像、炭坑爆発、メリーゴーランド。

    愛と、許し、そして生きているということ。

    読者それぞれに、ひとり一人異なる思い入れのページがあると思います。

    わたしは、繰り返し登場するメリーゴーランドの話が好きになりました。

    登場人物を乗せて、逃げては追いかけ。追いかけては逃げ。

    何度か乗ったことがあるメリーゴーランドに、そんな深い思いを感じることはありませんでした。

    重松清さんとともに、ひとの優しさに出会える一冊です。

                           2010年6月9日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.31

    カンガルーの本棚 夏を拾いに

    森浩美さんの「夏を拾いに」を読みました。

    「スタンドバイミー」という有名な映画があります。

    小説「夏を拾いに」は、同じ少年期のテーマを、不発弾を探す冒険に置き換えて、描かれています。

    小学校最後の数年は、子ども期でありながら、少しずつおとなの世界が分かりはじめる時です。

    何に夢中になり、何を追いかけていたのかは、ひとり一人違うでしょう。

    でも、明るさと不安の中に、誰もが毎日、昨日とは違う自分と出会う季節です。

    夏の日ざしの中で、のんびりとご一読されることをおすすめします。

                           2010年5月31日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.27

    カンガルーの本棚 かーかん、はあい②

    俵万智さんの「かーかん、はあい2」(朝日新聞出版)を読みました。

    俵さんは、お子さんと絵本を読む中で出会った数々の出来事を書きつづられています。

    五味太郎さんの挿し絵がふんだんに使われていて、可愛くて楽しい絵本の紹介本です。

    俵さんの短歌も効果的に使われており、クスリと笑いながら、すぐに読んでしましました。

                           2010年5月27日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.24

    カンガルーの本棚 発達が気になる子のサポート入門

    阿部利彦先生の「発達が気になる子のサポート入門」(学研新書)を読みました。

    学習障碍(LD)、広汎性発達障碍{PDD}、注意欠陥多動性障碍(ADHD)などの発達障碍を、阿部先生は「オリジナル発達」と呼ばれます。

    オリジナル発達の子どもが育つクラスは、

    「クラスの子どもたちが皆、日頃から愛され、満たされて、あたたかい心を持ち、他者に寛容で、失敗も許し、困っている子にはさりげなく手伝ってくれるクラス」だと言われます。

    「子どもはまわりのおとなを真似し、モデルとして成長する。子どもの傍らのおとなが、よい生き方を示してあげること。それが本来の教育の姿ではないでしょうか。」

    そのためには「自分の発言や行動が間違っていたと悟ったときに謝る勇気を示し、また他者の失敗に寛容であること、また困ったときには遠慮なく援助を求め、求められた側は援助に応えること、そして、助けられたことに感謝し、また自分に助けを求めてくれた人に感謝できること」そんなおとなのよき生き様を子どもに見せることが大切だと結ばれます。

    発達が気になる子どもとおつき合いされている方への入門書として、一押しの一冊です。

                          2010年5月24日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.13

    カンガルーの本棚 お味なおし

    俵万智さんの「考える短歌」(新潮新書)を読みました。

    短歌は、5・7・5・7・7の31文字の中に、自らの心象風景をあらわす文学です。

    初句を印象的にしよう。

    数字を効果的に使おう。

    など、いくつかのkey wordを手がかりに、投稿された短歌を添削されていきます。

    元のままでも十分に味わえる歌を、俵さんが少しお味なおしされるだけで、さらにおいしくいただける不思議さ。

    感性の鋭さと言葉の達人、俵万智さんならではの名著です。

                           2010年5月13日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.10

    カンガルーの本棚 アリス・アリス

    稲木昭子さんと沖田知子さんの共著「謎解き『アリス物語』」を読みました。

    映画「アリス・イン・ワンダーランド」の不思議さに少しでも迫ろうと、映画を観たその日に買い求めました。

    英語原文と、日本語訳を対比させながら、作者ルイス・キャロルが原作に仕掛けた謎に迫ります。

    児童文学と言えば、何かしら教訓めいたものが込められているのが通例ですが、「アリス」には教訓めいたものは読みとれません。

    数学者のキャロルは、英語表現を少しずらすことで、おもしろさとからくりを仕掛けます。

    「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」のガイドブックと、キャッチコピーには書かれていますが、わたしには最後まで道に迷う「不思議の国のアリス」でした。

                           2010年5月10日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.05

    カンガルーの本棚 ちいさな言葉

    俵万智さんの「ちいさな言葉」を読みました。

    作者が「たくみん」君とかわす、楽しい言葉の世界です。

    この本を読みながら、9時を過ぎる帰宅電車に乗りました。

    途中駅で座席があくと、荷物を持ったおかあさんが、女の子を座らせます。

    お膝に抱っこしてもらい、女の子は歌いだします。

    「ぐーちーはーて、ぐーちーはーて、なんつーろー、なんつーろー」と歌いながら、両手をパッと開きます。

    言葉というものを覚え始めたばかりの、ある瞬間だけに許される天使のうたごえに聞こえます。

    子どもの愛らしさと、それを受けとめるおとなの感性の素晴らしさに出会える良書です。

                           2010年5月5日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.05.02

    カンガルーの本棚 たくさんのなみだ

    リンダブックスの「99のなみだ 光」を読みました。

    雨・空・風・花・月と続いたシリーズものの最新作です。

    わたしたちは、いろいろな時に涙を流します。

    悲しい時、くやしい時、いたい時、そして、うれしい時。

    この短編集の中には、12の違った色のなみだが流れています。

    その中でも、わたしは「父とパパと」が好きです。

    子どもが生まれて戸惑う若いパパのもとに、父が訪れて・・

    ひとつ一つの小編は、手の上に乗るくらいの大きさです。

    短い時間の中でも、ひとの優しさを感じることができる短編集です。

                           2010年5月2日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.04.20

    カンガルーの本棚 こどもたちへ おとなたちへ

    水谷修先生の「こどもたちへ おとなたちへ」(小学館文庫)を読みました。

    水谷先生は、子ども達の非行や薬物乱用を防ぐために、長年「夜回り」を続けられています。

    夜回りの中で、水谷先生は、こどもたちや、おとなたちへ、どうしても伝えたいメッセージを、29編にまとめられました。

    わたしは先生がおとなたちにむけた次の一編に、つよく心をうたれました。

    「今は、きつい時代です。

    多くの大人たちが、無理に無理をかさねて、

    我慢に我慢をつづけて、

    やっとのことで、生きています。

    自分のこころを閉ざして。

    でも、大人たち、

    子どもたちには、こころを開こう。

    いっぱい泣いて、いっぱい笑って、

    いっぱい話して、いっぱい抱きしめて。

    きっと子どもたちが、

    たくさんの優しさくれます。」

                           2010年4月20日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.04.19

    カンガルーの本棚 子どもは話し方で・・

    福田健さんの「子どもは話し方で9割変わる」(アステ新書)を読みました。

    はじめに15の設問が書かれています。

    □疲れて帰っても、元気よく「ただいま」と声をかけているか

    □近所の人に自分から挨拶しているか

    □一日一回、家族と会話の時間を設けているか

    □「ダメ」ち言う前に、理由を説明しているか

    □自分ひとり、喋っていないか

    □親として、自分の気持ちを正直に伝えているか

    □妻から相談された場合、面倒がらずに相談相手になっているか

    □学校や先生の悪口を子どもの前で言っていないか

    □忙しくて話が聞けないとき、「あっちに行ってなさい」と、追い払っていないか

    □言葉だけでなく、奥にある子どもの気持ちを聞き取れているか

    □家族で決めたルールを子どもが破ったとき、厳しく叱っているか

    □できないことを叱るより、できたところをほめているか

    □子どもに意見を言うように促しているか

    □いじめにあったとき、「いつでもお前の見方だよ」と、子どもを支えているか

    □勉強の出来不出来で、子どもを評価していないか

    福田さんは、大人が子どもとの間で、ていねいなコミュニケーションを持つことができるように、具体例を多く引きながら解説されています。

    上記の15の設問に、あまりチェックが入らない方に、おすすめの一冊です。

                           2010年4月19日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.04.13

    カンガルーの本棚 名文どろぼう

    「名文どろぼう」とは、物騒な書名です。

    筆者は読売新聞のコラム「編集手帳」を執筆されている竹内政明さんです。

    古今東西の作家から、これはよしという名文を盗みに盗んで200余話。

    くすり、ほろり、なっとくと、いろいろな味を楽しめました。

    巻末に竹内さんが愛誦されている詩を載せられています。

    「風鈴」杉山平一

    かすかな風に

    風鈴が鳴ってゐる

    目をつむると

    神様 あなたが

    汗した人のために

    氷の浮かんだコップの

    匙をうごかしてをられるのが

    きこえます

    詩のあとに竹内さんは、このように書かれています。

    「心ならずも誰かに勇気を与えてしまったときだけは、思い出したようにウィスキーをロックで飲む。ひとり、グラスの氷を揺らし、神様の風鈴を真似てみる夜更けもある。」

                                  2010年4月13日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.04.04

    カンガルーの本棚 悪いのは・・

     

    香山リカさんの「悪いのは私じゃない症候群」を読みました。

    日本社会は古くは「おわびの構造」「自責の構造」が支配的とされてきましたが、最近「他罰的な行動」を取る人が増えてきたと言われています。

    職場で、社会で、そして家族の中で、「自分は何も悪くない。悪いのは○○だ」という考えを、香山先生は「悪いのは私じゃない症候群」と名付けられました。

    この他罰主義の広がりを、香山先生は自己責任論の裏返しだと分析されます。

    少しでも自分に非があれば、「それは自己責任だろう。自分で何とかしろよ」と冷たく言われ、誰も助けてくれない。

    「自己責任だ」と責められ、攻撃されることを回避するために、先制攻撃合戦が始まる。やられる前に先にやる。攻撃は最大の防御なり。こうした他罰主義の背景には、強い恐怖や不安が隠れているのではないかと、香山先生は続けられます。

    このような「悪いのは私じゃない症候群」への処方箋として、香山先生は「分かち合いの精神」を主張されます。

    「幸福とは、他者にとって自分の存在が必要だと思えること。」

    「助け合うことは自分が幸せになるために必要だから。」

    医療生協の設立の精神にも通じる、大切な視点だ思いました。

                           2010年4月4日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.03.30

    カンガルーの本棚 通勤電車でよむ詩集

    小池昌代さんの編著「通勤電車でよむ詩集」を読みました。

    小池さんは、「詩を読むということは、読むというより、思い出す作業に似ている」と、はしがきに書かれています。

    この詩集には40数編の詩が収められています。

    そのなかで、わたしのベストをご紹介します。

    「胸の和泉に 塔和子」

    かかわらなければ

      この愛しさを知るすべはなかった

      この親しさは湧かなかった

      この大らかな依存の安らいは得られなかった

      この甘い思いや

      さびしい思いも知らなかった

    人はかかわることからさまざまな思いを知る

      子は親とかかわり

      親は子とかかわることによって

        恋も友情も

        かかわることから始まって

    かかわったが故に起こる

    幸や不幸を

    積み重ねて大きくなり

    くり返すことで磨かれ

    そして人は

    人の間で思いを削り思いをふくらませ

    生を綴る

    ああ

    何億の人がいようとも

    かかわらなければ路傍の人

      私の胸の泉に

    枯れ葉いちまいも

    落としてはくれない

                           2010年3月30日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

  • 2010.03.25

    カンガルーの本棚 もうひとつの「おくりびと」

    高田郁さんの「出世花」を読みました。

    書店のポップアップに「もうひとつのおくりびと」と書かれています。

    江戸時代の底辺に生きる人々をやさしい目で見つめ、まっとうに生きようとする主人公。

    前回ご紹介しました「想い雲」の中で、作者は主人公の澪に「天災を除いて世の中で一番恐ろしいのは、妖怪でも化け物でもなく、生きているひとだと思う。だが、恐ろしいのもひとだけれど、同時にこの上なく優しく、温かいのもひとなのだ。」と語らせています。

    その原点が「出世花」という作品にあるように思います。

                           2010年3月25日

                           いたやどクリニック小児科 木村彰宏

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